2022年6月21日火曜日

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席予定の岸田文雄首相への公開質問状

この公開質問状(個人賛同67名、団体賛同14)を岸田(広島)事務所宛に、広島市内から、6月20日に投函いたしました。

 

岸田文雄首相様

 

前略

 

6月5日の新聞報道によると、あなたは今月26〜28日にドイツで開かれるG7会議の直後、29〜30日にスペインのマドリッドで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席される可能性が高いとのこと。推察するに、その理由は、ウクライナ戦争(=ロシア・プーチン大統領によるウクライナ侵略戦争)に対するNATOの戦略への強い支持の声を伝えるためであろうと考えます。

いまここでウクライナ戦争勃発の原因やこれまでの経緯、戦争終結策などについて詳しく議論している時間はありませんので、1点にだけ絞って質問させていただきます。

 

NATOの「新しい戦略構想」における核戦略

 

質問は、あなたが自分の選挙区としている広島、すなわち米軍が犯した原爆無差別大量殺戮という由々しい「人道に対する罪」で多くの犠牲者を出し、77年を経た現在もまだ放射能汚染が原因で様々な疾患に苦しんでいる被爆者を出し続けている広島と核兵器との関連での質問です。

つい先日、NATOはその東部境界線における陸海空の防衛のために4万人の兵員を新たに増加することを発表しました。と同時に、来るマドリッドでのNATO首脳会議では「新しい戦略構想」を発表することも明らかにしました。NATOの「新しい戦略構想」は1999年以来、毎回、その軍事行動の範囲が、西欧を中心としたNATO加盟国地域をはるかに超えて、中東地域をはじめ世界各地に広がり、様々な武器開発と購入にも多額の資金が投入されてきました。この行動範囲と活動の広がりは、とりわけ2001年の9・11同時多発テロから始まったブッシュ政権の「対テロ戦争」に、密接に協力する形で進められてきました。そして今や、その戦略構想にはロシアだけではなく、アジア太平洋における中国封じ込め作戦にまで広がってきており、その「戦略地域」には宇宙空間までもが入れられています。

 この「新しい戦略構想」には、「化学・生物兵器、放射能ならびに核の脅威への備えと対抗策を高める」ことも含まれており、これについての議論も、マドリッドの首脳会議で行うことを明らかにしています。「放射能ならびに核の脅威への備えと対抗策を高める」とは、具体的にどのような「戦略構想」を目指しているのでしょうか。

現在、NATOの核兵器保有3カ国(米仏英)とロシアが保有している核弾頭は、合わせて1万2千発と言われています。言うまでもなく、広島で使われた原爆はTNT火薬に換算して15キロトンであったのに対し、例えば英国の核兵器の多くはその7倍以上の100キロトンです。しかし、これらの国が保有している大型核弾頭の多くが800キロトンという、もしそのうちの一発でも使われたならば、無数の人間と生物・植物を死滅させるだけではなく、確実に全世界の気候が甚だしく影響を受けることが間違いない、壊滅的破壊力を持つものです。

その上に、米軍がヨーロッパに配備している爆撃機搭載の核爆弾が150発ほどあります。それらには、最大170キロトンの戦略核兵器の他に、0.3キロトンほどの小型の戦術核兵器と呼ばれる、2種類があります。小型の戦術核兵器(いわゆる「使える核兵器」)の開発は、とりわけオバマ政権とトランプ政権下で、強く推進されました。ウクライナで核兵器が使われるとするならば、この2種類、とりわけ、最初の核兵器交戦の段階ではロシアもNATO側も戦術核兵器の使用から始めるでしょうが、一旦始まれば、急速に大型核兵器の使用へとエスカレートしていくことは避けられないでしょう。NATOが主張する「放射能ならびに核の脅威への備えと対抗策を高める」構想とは、ロシアへの核攻撃を想定して、この「使える核兵器」をNATOの東部地域にもっと数多く配備する計画であろうと思われます。

ロシア軍のウクライナ侵略が開始された2月24日段階で、すでに緊急発射の準備段階に置かれている核兵器の数は、ロシア側もNATO側も、それぞれ1千発と推定されています。つまり、これはウクライナ戦争と関係なく、常に配備されている核兵器の数です。その上に、2月27日には、プーチン大統領はロシアの核兵器を「特別警戒体制」に置いたと宣言しました。「特別警戒体制」が、具体的に何を意味しているのかは明らかではありませんが、使用する可能性がさらに高まったことを意味していることは間違いありません。その上にNATOの「新しい戦略構想」の実施は、ウクライナでの戦争を核戦争へと急展開させる危険性をさらに高めることになります。

 

戦術核(小型核爆弾B-61)

 

ちなみに核抑止力」の保持は、実際に核兵器を使う行為ではないことから、犯罪行為ではなく、政策ないしは軍事戦略の一つであるという誤った判断が一般的になっています。実際には、「核抑止力」は、明らかにニュルンベルグ憲章第6条「戦争犯罪」(a)「平和に対する罪」に当たる重大な犯罪行為です。「平和に対する罪」とは、「侵略戦争あるいは国際条約協定誓約に違反する戦争計画準備開始あるいは遂行またこれら各行為いずれか達成を目的とする共通計画あるいは共同謀議へ関与」(強調:引用者)と定義されています。「核抑止力」とは、核兵器を準備、保有することで、状況しだいによってはその核兵器を使ってある特定の国家ないし集団を攻撃し、多数の人間を無差別に殺傷することで、「戦争犯罪」や「人道に対する罪」を犯すという犯罪行為の計画と準備を行っているということです。

さらに、そうした計画や準備を行っているという事実を、常時、明示して威嚇行為を行っていることなのです。核兵器の設計、研究、実験、生産、製造、輸送、配備、導入、保存、備蓄、販売、購入なども、明らかに「国際条約協定誓約に違反する戦争の計画と準備」です。したがって、「核抑止力」保持は「平和に対する罪」であると同時に、「核抑止力」による威嚇は、国連憲章第2条第4項「武力による威嚇」の禁止にも明らかに違反しています。1996年の国際司法裁判所ICJの「核兵器の威嚇・使用の合法性に関する勧告的意見」も、その第47項において、「想定される武力の使用それ自体が違法ならば、明示されたそれを使用する用意は、国連憲章第2条第4項で禁じられた威嚇である」と明記しています。

核兵器の使用は大量殺戮と広域にわたる環境破壊、最悪の場合は人類破滅という結果をもたらす徹底的でかつ極端な破壊行為であることから、その実際の使用行為と準備・保有による威嚇行為は、性質上二つの異なった行為ではなく、一体のものと考えるべきなのです。広島・長崎の反核思想と市民運動は、「核兵器使用」反対だけではなく、この「核抑止力=平和に対する罪」という解釈を根本理念とすべきであることを、私たちは決して忘れてはならないと思います。

 

「極限状況における核使用」は許されるというあなたの考えは原爆被害者に対する裏切りです

 

  人類を殲滅し、地球を徹底的に破壊できるだけの、これほどまでに多量の核兵器をすでに配備しているNATOとロシアが、さらに核配備を増大させようとしている狂気的とも言える状況の中で、あなたは衆院広島1区選出の国会議員であり、いつも「唯一の戦争被爆国」を売り物にしている日本国首相として、マドリッドのNATO首脳会議に出席され、一体全体、何を述べられようとするのでしょうか?

2014年1月20日、当時安倍内閣の外相としてあなたは長崎で「核軍縮・不拡散政策スピーチ」と題して講演、その中で政府の新たな核兵器政策に関して言及し「核兵器の使用を個別的・集団的自衛権に基づく極限の状況に限定する」ことを核保有国が宣言すべきだと述べました。要するに「日米が集団的自衛権を行使するような戦闘で『極限の状況』と判断するような事態であれば、核兵器の使用が許される」という主張です。ところが「極限の状況」とはいったいどのような事態なのかについては、なんらの定義も説明もあなたはしませんでした。集団的自衛権は日本の国家と国民にとって「明白な危険性」がある場合にのみ使用するという政府の主張に、「明白な危険性」とはいったいどのような事態なのかについての説明が全くないのと同様です。

日本政府は米国の「核の傘=核抑止力」に依存するという方針を、一貫して内外に向けて明らかにしてきました。しかし「核兵器の使用」については具体的にどのような状況で使用を認めるかについては、それまで全く言及したことはありませんでした。よって2014年1月のあなたの発言は、日本政府が初めて「核兵器の使用」を公然と容認するものであった点で、極めて深刻です。「集団的自衛権」行使のもとでの「核兵器使用」は、単に米国の核兵器使用容認にとどまるものではなく、結局は、日本の核武装そのものの容認にまでつながっていく危険性をはらんでいます。なぜなら「集団的自衛権」を行使して米軍と共同で戦争を行うなら、米軍と同じ戦力を備える必要があり、そのためには核兵器保有も必要であるという論理を許してしまうことになるからです。

核兵器の持つ特殊な破壊力と性質上、「人道に対する罪」や「戦争犯罪」を犯さずに核兵器を使用することは現実的に不可能であるところから、「合法な自衛戦争」においてもこれを使用することはできません。また、どのような理由があるにせよ、一旦、小型のものであれ核兵器が使用されれば、大型核兵器の全面的な使用へと急速にエスカレートしていく危険性があることも明らかです。よって、個別的であろうと集団的であろうと、「自衛のための核兵器使用」ということは、法理論的にも現実的にも許されないことであり、したがって、「核兵器合憲論」は、憲法自体のみならず、国際法の観点からしても、論理的に不整合であり且つはなはだしく不条理です。同時に、原発(とりわけ高速増殖炉)と核燃料再処理工場の存在そのものが「潜在的核抑止力」と一体となっていることを考えますと、これらのいわゆる核エネルギー関連施設の存在は、憲法第9条の「武力による威嚇又は武力行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する」という条文に違反するものであると言えます。

すなわち、「核抑止力」は「平和に対する罪」であると同時に、憲法第9条にも明らかに違反する犯罪行為なのです。

  したがって、「極限状況における核使用」は許されるというあなたの考えは、米国による広島・長崎の原爆無差別大量殺戮の全被害者に対する裏切りだと、はっきりと言えます。そんなあなたには、衆院広島1区を選挙区とする資格はないと私たちは思います。

そこで再度お尋ねしますが、そんなあなたが、NATOが核戦略を含む「新しい戦略構想」を発表しようというマドリッドの首脳会議に出席され、一体全体、何を述べられようとするのか、具体的に広島市民に説明する責任が、広島を選挙区とするあなたにはあると思います。と同時に、「唯一の戦争被爆国」を常に強調される日本国首相としては、国民に対しても、NATOの核戦略についてあなたがどういう姿勢を取られるのかを説明される責任があると思います。

  ご多忙とは思いますが、今月26〜28日にドイツで開かれるG7会議に向けて出発される前に、そのことを是非とも説明していただきたいと思い、この公開質問状を提出させていただく次第です。

                                                草々

2022年6月13日

久野成章(広島市民、広島1区住民)

〒広島市中区堺町1−5−5−1001

田中利幸 (オーストラリア在住)

 

 

賛同者名(順不同、敬称略)

 

豊永恵三郎(被爆者 広島)、森口 貢(被爆者 長崎)木戸衛一、迫雅之、寺尾光身、五十嵐正博、有馬保彦、山端伸英、半田隆、クレアモント康子、川本隆史、都築寿美枝、岡原美知子、斉藤日出治、小泉雅英、山下恒生、松元保昭、ウルリケ・ヴェール、木原省治、行方久生、上羽場隆弘、新田秀樹、国富建治、小武正教、黒岩秩子、原仲裕三、加藤寿子、喜多幡佳秀、山下恒生、坂田光永、橋本卓三、國光 了、國光幸子、𠮷澤幸宣、竹内公昭、盛谷祐三、西岡由紀夫、浅川泰生、中川哲也、峯本敦子、池田正彦、岡嵜啓子、日南田成志、増田都子、横原由紀夫、石岡敬三、平原敦志、正木和子、正木峯夫、高橋博子、難波郁江、実国義範鴻巣美知子、宮岡照彦、大井恭子、武田隆雄、宮島武郎、石口俊一、藤本講治、塚本秀男、堀内隆治、山本英夫、五十嵐守、舟越耿一、中北龍太郎、星川洋史、三谷智美

 

賛同団体名(順不同)

 

HIROSHIMATIME 実行委員会(代表・田中伸武)

市民SOHO蒼生舎

日本軍「慰安婦」問題解決ひろしまネットワーク

平和と民主主義をめざす全国交歓会・滋賀

脱原発・滋賀アクション

ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)・広島

労働運動活動者評議会

改憲阻止!労働者・市民行動

ピースリンク広島・呉・岩国

ATTAC関西グループ

環境社会主義研究会

日本カトリック正義と平和協議会

関西共同行動

広島文学資料保全の会

 

2 件のコメント:

福田玲三 さんのコメント...

心強い公開状に感銘を深くしています。あわせて、危機的な現状に慄然としています。
マスコミや野党はもっと機敏に政権の暴走に対処すべきであり、事態の傍観視は許せません。
福田玲三(東京都)

田中利幸 さんのコメント...

福田さん

コメントに感謝いたします。『走る高齢者たち オールドランナーズヒストリー』のご著書のある福田さんと推察いたします。ご著書をいつか読ませていただきたいと思いつつ、オーストラリアでは入手が困難なため、次回の一時帰国の折には必ず入手したいと願っております。どうぞお元気で、私のような70歳代の若造(笑)を激励し続けて下さるようお願いいたします。ありがとうございました。

田中利幸