2022年11月21日月曜日

ベルリン「平和の像」が切り開いた世界

オンライン集会

 

 

 


 

 

2022年12月11日(日曜)19:00〜21:30

参加費:1000円(学生・障がい者無料  言語:日本語・英語<通訳あり>)

場所:ZOOMウェビナー(録画配信あり)

 

2020928日ベルリン・ミッテ区に「平和の像」が市民団体の努力によって設置されました。日本政府は直ちにドイツ政府に撤去の圧力を加え、意向を受けたミッテ区長が撤去命令を発するや、即刻、ベルリン市民や進歩的諸政党が設置継続の活動を始め、撤去を阻止することができました。さらに、その後も続く日本政府や日韓の右派勢力からの圧力に加え、今年4月には岸田首相がドイツのショルツ首相に像の撤去を要請したにも関わらず、119日ミッテ区は像の設置を引き続き2年間延長する事を決めました。今回、この「平和の像」がドイツ国内や世界に及ぼした議論と影響をベルリンからお届けします。

 

 

講演1 〜ベルリン・ミッテ区モアビット〜 地元市民が受け入れた「平和の像

 

梶村道子さん

1975年以来ベルリン在住。1992年にベルリン女の会と韓国女性グループとともに「慰安婦」問題に取り組んで現在に至る。ベルリン・ミッテ区の「平和の像」設置を、ミッテ区住人として傍でみてきた。共訳著にクリスタ・パウル著『ナチズムと強制売春。強制収容所特別棟の女性たち』(明石書店、1996

 


 

 

講演概要

ベルリン市ミッテ区モアビットに設置された「平和の像」は、日本政府の執拗な介入にも関わらず、2年が過ぎた今も健在だ。設置認可当局のミッテ区が、日本大使館やベルリン州政府の圧力に屈して即刻撤去命令を出したことが、当事者のコリア協議会はもとより、地元市民の怒りを招き、メディアの関心を惹いた。コリア協議会は短期間に3000筆もの抗議署名を集め、区議会は撤去命令の2ヶ月後に、像の恒久設置決議を採択した。こうして拡がったミッテ区行政への抗議とコリア協議会への支援は今も続いている。その背景にある、コリア協議会の青少年を対象に続けて来た性暴力に関する地道な活動、そして記憶する文化を実践してきた受け入れ側のモアビット地区の特性を、像の設置前から現在までの地元での動きを通して報告する。

 

 

講演2〜幾つもの意味を持つ一つの像〜

 

レギーナ・ミュールホイザーさん

ハンブルク文化振興財団上級研究員、国際研究グループ「武力紛争時における性暴力」のコーディネーターを務める。著書に『戦場の性:独ソ戦下のドイツ兵と女性たち』(岩波書店 2015)、『Sex and the Nazi Soldier: Violent, commercial and consensual encounters during the war in the Soviet Union, 1941-45』(Edinburgh UP 2021)共編著に『In Plain Sight: Sexual Violence in Armed Conflict (Zubaan, New Delhi, 2019)

 


 

 

講演概要

現在、ドイツでの「平和の像」をめぐる論争は、主にベルリンの少女像に焦点が当てられている。しかし、ラーベンスブリュック女子強制収容所記念館をはじめ、ドイツの他の多くの場所で、この像の異なるバージョンが一時的に展示されていたし、現在も展示されている。この像が公開されるたびに、フェミニストの講演者たちは、第二次世界大戦中のドイツ国防軍とナチス親衛隊による性的暴力の歴史に注意を喚起してきた。こうした講演者たちは、トルコの刑務所におけるクルド人女性への性的拷問や、ウクライナにおけるロシア兵によるレイプなど、現在の事態にも触れている。しかし、日本政府や右翼団体は、この像が日本を誹謗中傷するためのものだと主張し続けている。また、ドイツ国民の多くは、像をめぐる対立を「どうせ理解できない」日韓の争いと認識している。レギーナ・ミュールホイザーは今回の講演で、ドイツのさまざまな視点を紹介し、この議論とその結果や影響をどのように理解したらよいかを問いかけます。



オンライン・ZOOMウェビナ録画配信あります。

参加費:1000円 (学生・障がい者無料)

申し込み: https://forms.gle/aVLP3HcXxBSH5uZf8

申し込み締め切り:12月6日(火)24時

入金方法など詳細は申込後にお知らせします。

 

主催:日本軍「慰安婦」問題解決ひろしまネットワーク

共同代表:足立修一・田中利幸・土井桂子 _

連絡先:090-3632-1410(土井) E-mailianfnet.hiroshima@gmail.com

 


図書館は、原始、人間の夢だった

710日に、このブログで、広島文学資料保全の会・池田正彦さんが、広島市の中央図書館、映像文化ライブラリー、こども図書館の3施設を広島駅前の商業ビルの中に移転する広島市の計画を厳しく批判する論考、「広島市立中央図書館所蔵の峠三吉文学資料は広島の戦後史・文化史をひもとく鍵」、を紹介させていただいた。その論考紹介のイントロで、私は以下のように書いた。

<広島市は今年2月に、現在は市中心部の「平和公園」近くにある中央図書館、映像文化ライブラリー、こども図書館の3施設を広島駅前の商業ビルの中に移転する計画を発表した。松井市長は「利便性」や「文化機能の発揮」という考慮からの提案であると述べているそうだが、この説明は全くナンセンス。「利便性」からしても「文化機能の発揮」の点からみても、現在の場所のほうがはるかに適していることは誰の目にも明らか。古くなったこれら3施設を新しくするために市の予算を使わず、すでにある商業ビルの中に、いわば「丸投げ」の形で移転させて問題を解決しようという本音を隠すための、詭弁であることは明白である。>

 

今日は、その広島市行政批判の続編とも言える、広島文学資料保全の会・代表 土屋時子さんが『子ども図書館プロジェクト』という冊子に寄稿された、素晴らしい論考「図書館は、原始、人間の夢だった」を紹介させていただきます。

 

図書館は、原始、人間の夢だった

広島文学資料保全の会・代表 土屋時子

 

はじめに 「夢に描く理想の図書館」

そこにはまず心地よい環境の中に、安心できる空間があり、本との偶然の出会いがあり、 歴史的で普遍的で、文化的で国際的で、言語を超え、世代を超え、時空を超える、自由な存在なのだ。

アタマが開かれていない人間に限って、行政枠の中に入れようとし、教育のつもりで教化しようとしたり、何かの効果や利便を求めたりする。命令から最も遠い場所が図書館だ。   

図書館は図書館だ、文化を創造する場であり、利益を追求する商業施設ではない。

広島市の「基幹図書館群」とは

基幹図書館群とは、広島市立中央図書館(以下「中央図書館」)、広島市映像文化ライブラリー(以下「映像文化ライブラリー」という)、広島市こども図書館(以下「こども図書館」)の 3 館のことである。広島市では基幹図書館群が危機的状況にさらされている。

広島市立中央図書館(1974.10)の使命

中央図書館の前身は『浅野図書館』(旧広島藩主浅野家が 1926 年に設立)である。1945 年原爆投下によって壊滅的な状況だったが、翌年業務を再開し1955年に国泰寺町(市議会棟がある場所)に移転し、1974年現在の中央公園内に新築移転した。各区図書館(8 館)、こども図書館、まんが図書館、公民館図書コーナー等の中枢館として、資料管理、貸出サ ービスを支えるコンピュータシステム、全館に資料を提供する運営管理を行っている。移動図書館「ともはと号」では図書館や公民館が利用しにくい地域の支援も行っている。約 110 万冊の蔵書を有し、市民の高度な学習・研究への支援を行っている。中央図書館の果たすべき役割は、地域文化の継承と発展を目指し、長年蓄積された広島に関わる多様な資料を継続的に収集・保存し、後世につなぐべく保存に最大限努めることである。

その中の「広島文学資料室」(1987.10~)のこと

1987年「広島に文学館を設立しよう!」と願う多くの文化人、研究者、市民が集まり

「広島文学資料保全の会」が設立された。「当面は中央図書館を活用する」との荒木元市長の言で「広島資料室」に「広島文学資料室」が併設された。<当面>が既に35年を過ぎようとしている。

広島市には、広島が生んだ児童文学の先駆者・鈴木三重吉、原民喜、峠三吉はじめ広島にゆかりの深い文学者の貴重な資料が寄贈され、収集・公開している。文学者も資料もその後増えていくべきなのだが、文学者 21 人も35年間そのままで資料数も増えず、拡充しているとは言い難い。文学館建設の計画もなく、人類の未来のための文学館は夢物語なのだろうか

 福山市には福山城の傍に、城を情景にした瓦ぶき白壁の上品な「ふくやま文学館」がある。井伏鱒二の蔵書群や書斎も魅力的である。「文学館」のある町は何度訪れても文化の香り豊かで心癒される。文化度において、広島市は福山市より劣っていて残念である。

 

   
 広島文学資料室(1987年10月〜)撮影:河口悠介  

ふくやま文学館(1999年開館)




 その中の「原爆文学」を「世界の遺産」に

「広島文学資料保全の会」と広島市は共同で、2015 年(当時は「世界記憶遺産」という) と 2021 年に、ユネスコ記憶遺産への登録申請を行った。国内で 2 件が選定されるのだが、なぜか国宝や重要文化財の史料ばかりである。政府が国内選定をする制度は現在情報非公開となり、多くの問題を抱えているが、核兵器廃絶と平和の礎を目指し、2023 年に三度目の登録申請に希みをかけている。

広島市映像文化ライブラリー(1982.5~)

映像文化ライブラリーは広島市が掲げる「国際平和文化都市」像の実現に向けた取組の うち、映像文化の普及、振興、発展に寄与するため、地方自治体としては初めて、日本映 画等の映像資料・音楽資料を収集・保存する専門施設として開館した。これら資料の視聴 や貸出し、広島発の自主映画や日本の名作、外国作品等の映画観賞会、講演会、講座、ワ ークショップ等多彩なイベントも開催している。 特に広島や平和をテーマにした映像作品の提供は、公共施設としての大きな使命である。また、今まで蓄積してきた映像作品を市民の貴重な財産として後世に伝えていくために、保存と上映機能の維持は不可欠であり、フィルムなどの保管設備や、フィルム映写機の上映機能をもった上映ホールの設置は必須である。映像文化ライブラリーは図書館機能をもった施設で、映画館とは機能も目的も違う。商業施設への移転案では、ライブラリーは消され映像エリアとなっている。

広島市こども図書館(1980.5)

こども図書館の前身は丹下健三氏設計による児童図書館であり、現在はこども文化科学館と併設されている。広島市立図書館における児童サービスの中央館としての役割を持ち、児童サービスの専門館である。広島の子どもたちのための蔵書収集、子ども・保護者・ボ ランティア等に対する子どもの本に関する資料相談サービス等、専門性が必要である。子ども自身が自由意志で参加できる場所と子ども時代の読書を保障し、保護者への子育て支援も重要な使命である。何よりも、子どもの読書環境を守ることが必須である。

図書館移転問題の本質

2021 年より具体化した「基幹図書館群」の移転問題は、これら図書館の機能と役割、そして果たすべき使命を無視したところから始まり、駅前商業施設への移転ありき、スケジュールありきで進んでいることが問題なのである。公共図書館の建設事業は広島市にとっても市民にとっても一大事業である。今後 50 年、100 年の未来を見据えて、どの場所が最もふさわしいかを考えるべきである。

図書館の危機は、自治体の危機、国際平和文化都市の危機

公共施設の管理・運営の代行制度として 2003 年から「指定管理者制度」が始まり、広島市の図書館では 2006 年から採用された。うたい文句の「コスト削減効果」は薄く、実際は費用加算状況であるとの統計結果が各市の『図書館要覧』で報告されている。また、「ツタヤ図書館」なる大型書店も全国に進出していて、図書館や地方自治のあり方そのものを問うまでに拡大している。

図書館の危機は自治体の危機にもつながる。それは平和文化都市広島の危機でもある。おわりに 「理想の図書館への夢」実現のたたかいは、まだまだ続く

今回の図書館移転問題では、特に「こども図書館移転問題を考える市民の会」の皆さんが、いち早く移転反対の声を上げ、全国の仲間たちへ署名活動も広げ、連日惜しみない活動を続けている。私も「みんなの図書館プロジェクト」の方と共に「理想の図書館への夢実現」に向け、いっそうの勇気をもって進んでいきたいと願っている。

 

憧れの図書館!みんなの森 ぎふメディアコスモス・3複合施設の中の岐阜市立中央図書館



 2015年7月開館 人口約41万人/125億円の建設費)