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2025年7月22日火曜日

性暴力(セクハラ)と憲法1条の相互関係についての一考察

この論考は<日本軍「慰安婦」問題解決ひろしまネットワーク>のニュースレター最新号に掲載されたものです。ご笑覧、ご批評いただければ光栄です。

 

田中利幸

 

権力による性暴力隠蔽

 

20154月、フリー・ジャーナリスト 伊藤詩織は、安倍晋三首相と親しい当時TBSワシントン支局長の山口敬之にアドバイスを受ける目的で東京で会い、二人で飲食している間に伊藤は急に昏倒し、意識を取り戻すと山口にレイプされている最中だった。被害後、伊藤は自分の下着から検出された山口のDNA、山口がホテルへ移動したタクシー運転手の証言やホテルの防犯カメラ映像などの証拠を集め、警察に告発。これを受けて高輪署も山口の逮捕令状を裁判所から得た。しかし、まさに捜査官が山口を逮捕しようとしたその間際に、警視庁本部の中村格・刑事部長(菅官房長官の元秘書官)の突然の指示で、逮捕は見送られた。政治権力の介入があったことは誰の目にも明らかであろう。

その後、捜査は警視庁本部捜査一課に引き継がれたが、十分な捜査は行わずに東京検察は不起訴を決定。事件数日後に被害届けに行った警視庁高輪署で、伊藤は「よくあることだから諦めろ」と言われたとのこと。2022125日、伊藤が山口から性行為を強要されたとして損害賠償を求めた裁判で、東京高裁は山口に330万円の賠償を求める判決を下した。4年間の長い苦しい闘いを経て、ようやく伊藤は勝利を手にした。

 

伊藤詩織

11歳のとき東日本大震災の被災地・宮城県での避難生活を余儀なくされたおりに、女性自衛官が活躍するのを目にして、五ノ井里奈は自衛隊入隊を志願。20203月に入隊してまもなく、郡山駐屯地の男性隊員たちから数々の性暴力被害を受けた。例えば、20218月、3人の男性隊員が五丿井をベッドに押し付け、両脚を無理やり開き、代わる代わる何度も股間を押し付けた。このとき周りには同僚が十数人いたが、誰も3人を止めなかったどころか、彼らの前で「すごい笑いもの扱いにされた」とのこと。五丿井はこの出来事を上官に報告したが、目撃証言を得られず、被害の訴えは退けられた。

20226月、五丿井は自衛官を退職し、インターネット上で性被害を訴える活動を展開。ユーチューブに投稿した動画は広く拡散され、彼女の事件について防衛省に調査を求める請願書には、10万人以上の署名が集まった。この訴えを自衛隊は無視できなくなったのであろう、ようやく内部調査を実施。その結果、100件を超える自衛隊内部でのセクハラの訴えが寄せられたとのこと。その後、防衛省は5人の隊員を懲戒免職にし、五ノ井に謝罪した。しかし彼女は、精神的苦痛を受けたとして、20231月にこれらの元隊員5人と国を提訴(うち1人とは和解)。そのうち3人は、彼女に対する強制わいせつ罪に問われ、同年12月に福島地裁が、懲役2年、執行猶予4年とした判決を確定した。さらに、20247月の横浜地裁の訴訟で、3人が謝罪した上で一定の金銭を支払うとの内容で和解した。

五ノ井里奈

政府や自衛隊という公的組織のみならず、商業(会社)組織内における性暴力問題とその組織権力による性犯罪隠蔽についても、多くのケースが次々と明らかとなってきている。例えば、ジャニーズ喜多川による長年の性暴力行為をジャニーズ事務所という会社が事実上「疑惑隠蔽」を行なっていたことや、最近のケースとしては、中居正広による女性アナウンサーに対する性暴力をフジテレビ自体が隠蔽しただけではなく、未確認情報ではあるが、会社の幹部が女性アナウンサーたちを「性的奉仕に動員」していたという情報すら流れている。つまり、性暴力とセクハラは、パワハラ同様に、決して組織内の諸個人レベルの問題ではなく、組織が公的か私的かにかかわらず、日本のさまざまな組織権力構造そのものが創り出している由々しい問題であることが明瞭に理解できる

検事正による部下の検事への性暴力と検察庁による隠蔽

ひじょうに根が深いと思われる「性暴力隠蔽」の構造的問題を、最近、最も顕著な形で露呈したのが、元大阪地検トップの性暴力を告発した被害者・検事のケースであろう。被害者である検事は実名を明らかにしておらず、「ひかり」という仮名を使っているので、ここでも仮名をそのまま使うことにする。なお、この事件に関する以下の説明は、ひかり自身による証言文に沿って、証言文を引用しながら記す。

20189月、大阪地検のトップである検事正の北川健太郎と検察職員らが参加する職場の懇親会で、ひかりは飲み慣れないアルコール度数の高い酒を飲む事態に陥り泥酔した。意識が朦朧とした状態で、北川からの二次会の誘いを断って1人でタクシーで帰宅しようとしていたところ、北川が強引にタクシーに乗り込んできて、彼女は官舎に連れ込まれ、長時間、性的暴行を受ける被害を受けた。彼女は泥酔していて身動きが取れず、北川と2人きりであったため他人に助けを求めることもできず、「夫が心配しているので帰りたい」と訴え続けたが、北川は、「これでお前も俺の女だ」と言い放ち、彼女に長時間に及ぶ性的暴行を繰り返した。 「女性として妻として母としての尊厳、そして検事としての尊厳を踏みにじられ、身も心もボロボロにされ、家族との平穏な生活も、大切な仕事も全て壊されてしまいました」と、彼女は吐露している。

北川は、最初は、なんら記憶にないとしながらも、彼女に対して一応罪を認め謝罪し、「警察に突き出してください」とまで言ったそうである。しかし彼女はあまりのショックで、被害を訴えることができなかったとのこと。しかし、その後、北川は辞職もせず検事正職に留まり、彼女の被害感情を逆撫でし続けたことから、事件から約1年後に、「上級庁に被害を訴える」、つまり内部告発するとひかりは北川に伝えた。ところが、北川は「口外すれば自死する。検察組織が立ち行かなくなる。あなたにとっても大切な組織と職員を守るために口外するな」などと、脅迫まがいの卑劣な口止めを要求したため、被害を訴えることができなくなったそうである。

彼女は、結局、泣き寝入りを強いられた形で、精神的痛みに堪えながら、また、警察官や他の検察官にも彼女自身の被害を伏せた上で、性犯罪や虐待被害など過酷な犯罪被害に苦しむ事件ケースを担当し続けたそうである。その一方、北川は、自分が犯した卑劣な性犯罪を隠蔽したまま円満退職し、数千万円の退職金と弁護士資格を取得し、且つ、引き続き検察庁に自身の影響力を及ぼし続けた。

ひかりは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)症状を悪化させ、病休に追い込まれ、生き甲斐だった検事の職まで失いかけたので、「生き直すため、家族との平穏な生活を取り戻すため、検事としての尊厳を取り戻すために、20242月、勇気を振り絞って被害を訴え、北川被告人から受け取らざるを得なかった私と夫に対する損害賠償金を全額突き返し、北川被告人に対する厳正な処罰を求めた」とのこと。

この彼女の証言から、ひかりの夫はおそらく彼女のことを深く理解し愛しており、常に精神的に彼女を強く支え続けているものと私は想像する。そうでなければ、幼さない子どもをもつ母親であるひかりがここまで精神的苦痛に耐えることができ、しかも加害者の卑劣で非道な行為と正面から向かいあって法的な闘いを続けることはできないのではないかと思う。愛情に満ちた真に理解のあるパートナーを持つこと、その強い人間関係の絆で支えられることが性暴力被害者にとっていかに大切であるか、そのことに痛く気づかされる想いである。

ところが、彼女が信頼していた同僚の1人である女性副検事が、内偵捜査中の秘匿情報を北川本人や関係者に漏洩し、さらには、ひかりがこの問題で北川との連絡でやり取りしていた証拠内容を削除して、北川の「同意があったと思っていた」という虚偽の弁解に沿うような虚偽の供述を副検事もすることで捜査妨害行為をしていたことを、ひかりはこの闘いの過程で知ることになった。しかし、検察庁は、副検事のこの捜査妨害犯罪行為を知りながら何の処分もせず、PTSDで苦しみながら復職しようとしていた彼女を、その副検事と同じ職場に復職させた。そのうえ、ひかりが北川の性犯罪被害者であるという、彼女が誰にも知られたくなかった秘匿情報を、副検事が検察庁内外に吹聴していたことも知ることになった。さらに、この副検事は、自身が事件関係者で事件の真相を知っているかのように装い、検察庁内で、秘匿されていた生々しい被害内容を吹聴し、ひかりが病気を偽り、まるで金銭目当ての虚偽告訴をしたかのような誹謗中傷をしていたことも知ることになった。

こうしてひかりは、800人の職員がいる大阪検察庁内外で広くセカンド・レイプの被害まで受け、プライバシーや名誉を著しく傷付けられ、本来被害者を守り、職員を守るべき検察組織に適正な対応をしてもらえず完全に孤立させられ、復職を目指していたにもかかわらず再び病休に追い込まれた。ところが、検察庁は、捜査を一方的に打ち切って不当処分にしてしまった。かくして彼女は「北川被告人、副検事、検察組織から何度も魂を殺され続けているのです」と検察庁を批難している。

ひかりは、20242、ついに被害を訴え出て、その結果、北川は同年6に準強制性交容疑で逮捕され、7に同罪で起訴された。202410の初公判で北川は「争うことはしません」と起訴内容を認め、「被害者に重で深刻な被害を与えた」と謝罪した。ひかりは女性副検事も名誉毀損や国家公務員法違反の疑いで告訴・告発したが、20253検は性副検事を不起訴処分とし、組織としての懲戒処分も最も軽い「戒告」で済ませてしまった。

記者会見するひかり

しかし、それだけではなかった。初公判で一旦罪を認めていた北川は、同年1210日、一転して、「同意があったと思っていた」と全く不合理な弁解をして無罪主張に転じたのである。周知のように、飲酒や、予想外の展開、相手との地位関係性などにより、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態でなされた性的行為は処罰される」という処罰範囲には、20237月施行の法改正前も法改正後も、変更はない。「同意があったと思っていた」という身勝手極まりない破廉恥な言動は、北川だけではなく、山口敬之など、アルコールや薬物を摂取させたうえで強かんを犯す加害者の多くが使う卑劣な口実であることは今さら言うまでもないであろう。しかも、この口実をそのまま受け入れる裁判ケースが多々あるので、同じ口実を使う加害者が後をたたない。

よって、残念ながら、ひかりの裁判闘争は今後も長く続くことになりそうである。ひかりは、自浄能力を完全に失っている組織である検察庁には、第三者委員会による検証と被害者庁の設置が必要であることを強く訴えている。フジテレビのケースが第三者委員会の設置によって初めて真実が明らかになってきたように、性暴力やパワハラを組織権力そのものが黙認し且つ隠蔽しているのが一般的な状況である日本では、組織構造全体を自浄するためには、どうしても独立した第三者委員会の設置が必要である。なお、あらためて言うまでもないと思うが、性暴力は被害者を精神的に支配したいという加害者のパワハラ欲求と重なっているので、この二つを同時に問題にしなければ真の解決は不可能である。ひかりも証言の中で、性暴力を受ける以前から、激しいパワハラを北川から受けていたことに言及している。

日本における「性暴力・セクハラ・パワハラ」と天皇制イデオロギー

  性暴力、セクハラやパワハラは、もちろん日本独自の問題ではなく世界各国に見られる普遍的な問題である。しかし、海外、とくに欧米先進諸国における同じような問題はあくまでも個人レベルの問題であって、組織全体が構造的に、権力を使って、その特定の個人が犯した性犯罪やパワハラを黙認するだけではなく、隠蔽してしまうなどというケースはほとんどなく、あったとしても極めて稀ではないかと思われる。ましてや、性犯罪を含むさまざまな刑事事件の捜査を行い、被疑者を起訴するか否かを判断する検察庁が、その職員が検察庁内部で犯した性犯罪とそれに関連した犯罪を隠蔽してしまうなどということは、ほとんどありえない話である。

201411月、衆議院議員・鈴木貴子による検察官によるセクハラ行為に関する質問に対する当時の国務大臣・麻生太郎による答弁書では、2004年から14年までの10年間に検察官がセクシャル・ハラスメントをした事例で、法務省において把握しているだけでも12件あることが確認されており、その中には静岡検察庁の、これまたトップである検事正が、女性職員に対して犯したセクハラ行為が含まれている。おそらくこれらの事例は「氷山の一角」であり、ひかりのケースのように被害者が表沙汰にするケースはほとんどないのではなかろうか。こんな為体な検察庁なので、性暴力・セクハラの被害にあった一般女性が警察に相談したとしても、被害届が受理された件数は相談した中の約半数であり、そのうち検察で起訴された数はごく僅かというのが現状。よって、8割以上の被害者が被害届を出さないというのが日本の現状なのである。

    こうして日本の現状を見てくると、日本の性暴力は個人レベルの問題をはるかに超える、歴史文化的な社会構造の問題であって、この歴史文化が、戦後80年経っても日本軍性奴隷制度(いわゆる「慰安婦制度」)に対する責任回避を政府に続けさせ、日本のジェンダーギャップを世界で146 カ国のうち118位という低位置にとどめ、杉田水脈のような人間として低劣な女性・人種差別主義者を国会議員に選出し、選択的夫婦別姓をゆるさない世界でも稀な国とさせ、いまだに大多数の国民が、家父長制的家族国家の維持をことあるごとに強く打ち出す政府、保守政党と政治家たちの存在をほとんど異常とは思わない、極めて異常な「立憲君主制の民主主義国家」にし続けている。

    ところがこの「立憲君主制」そのものに、ジェンダー問題で度し難い矛盾が埋め込まれていることに、大部分の国民はもちろん、憲法学者ですら注意を向けない。民主憲法と称しながら、憲法1条の天皇は、皇室典範第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」となっており、天皇の存在そのものが男女平等を保証する憲法14条と24条に明らかに違反している皇室典範には第1条だけではなく、憲法に違反するまだ多くの条項が含まれているが、とにかく憲法1条で規定されている「象徴」としての天皇が男でなければならないことは、したがって天皇という存在そのものが、まさしく「女性差別」だけではなく「LGBT差別」の象徴でもあるのだ。それだけではなく、日本の伝統的な家父長制的家族国家観を社会のさまざまな面で深く支え続けている「天皇制イデオロギー」  ― それが実は上で見た日本のさまざまな組織権力構造の支えともなっているイデオロギー ― の発生源でもあり続けている。よって、再度述べておくが、憲法1条と天皇制イデオロギーによって強く深く且つ広く支えられている日本の伝統文化そのものの根本的な変革なしには、さまざまな日本の組織内における性暴力・セクハラ・パワハラを一掃することは不可能であろうと私は考える。

― 完 ―


2025年6月15日日曜日

空爆による無差別大量殺戮を終わらせることは可能か?!

 今年510日に広島で開かれた講演会『軍都廣島131年の歴史から考える天皇裕仁と天皇制の「招爆責任」・朝鮮人被爆者問題』に、「朝鮮半島出身の原爆問題について」と題して講演された金鎭湖さん(広島県朝鮮人被爆者協議会会長)と一緒に、私は講演者として招かれましたが、ちょうどその折は旅行中で出席できませんでした。そのため、事前にZOOM録画していただいた講演を当日、会場で上映していただきました。その講演会で配布していただいた講演ノートを少し短くした短縮版に目を通していただきながら、やはり講演会で使ったパワー・ポイントを少し新しくしたものを観ていただけるよう、その両方をダウンロードできるようにいたしました。お時間のあるときにでもご笑覧いただき、ご意見をいただければ幸いです。

田中利幸

空爆による無差別大量殺戮を終わらせることは可能か?!

重慶爆撃、広島・長崎原爆ジェノサイドからガザ・ジェノサイドまでの歴史から考える

目次:

1)           はじめに:日本軍による中国諸都市の無差別空爆の実相

2)           天皇制ファシズム下の総力戦体制と「防空制度」による自国民の人権無視

3)           米軍による日本本土での無差別空爆大量殺戮の実相

4)           通常戦略爆撃の一貫として理解された原爆無差別大量殺戮

5)           原爆無差別大量殺戮の真の目的はあくまでも「政治的」!

6)           日米両政府による「原爆神話」の捏造

7)           今も続く「ヒロシマ」の政治利用といかに闘うべきか

8)           国家原理を拒否する憲法9

9)           「戦争損害受忍論」と「戦争被害者ナショナリズム」の克服を目指して

10)     国家原理を崩していくための「痛みの共有」

11)     結論:無差別空爆ホロコーストをいかに終わらせることができるか?

 

講演用(短縮版)ノートは下記のURLからダウン・ロードできます。

https://drive.google.com/file/d/1sO84hjtbZfq9aH4fMUX0V5u9MHLpCPDl/view?usp=sharing

 

パワー・ポイントは下記のURLからダウン・ロードできます。

https://docs.google.com/presentation/d/1YrzOc56DSnPLMq72dmh5NnlGRe8U2xQS/edit?usp=sharing&ouid=106747966809556113509&rtpof=true&sd=true

 

2024年4月20日土曜日

カナダ公共放送局CBCが「無差別爆撃」に関するラジオ番組を放送

Canadian public broadcaster CBC broadcasts radio 

program on “indiscriminate bombing.”

 

現地時間417日にカナダの公共放送局CBCが、1時間近いラジオ番組 “The History of Bombing Civilians: and why it is still a military tactic” (市民爆撃の歴史:なぜいまだに軍戦術なのか)を放送しました。この番組で私を含む3人(他の2人は米国人)がインタヴューを受けましたが、私は、第1次世界大戦からなぜ「無差別空爆」が始まり、戦後はその空爆戦術を英国や仏独が植民地支配のためにいかに活用し、第2次世界大戦では日独の枢軸国側も米英の連合国側もなぜ大々的にこの「無差別空爆」を展開するようになったのか、またいかにそれを正当化するようになったのかについて解説しました。

On 17 April local time, Canadian public broadcaster CBC aired a nearly hour-long radio program, “The History of Bombing Civilians: and why it is still a military tactic.” Three people, including myself (the other two were Americans) were interviewed on this program, and I was asked to explain why and how “indiscriminate bombing” began in World War I, how the British, French and Germans used this bombing tactic to control their colonies after the war, and why and how both the Axis powers (Japan and Germany) and the Allies (the US and Britain) came to deploy this “indiscriminate bombing” on a large scale in World War II and how they justified it.

それに続き番組は、イラク戦争で米軍が精密爆撃で戦争に勝利したという公的発表とは異なって、実際にはどれほどひどい「無差別爆撃」で多くの市民を殺害したかを、詳しく解説しています。

The program then goes on to detail how, contrary to official claims that the US military won the war in Iraq through precision bombing, it actually killed many civilians in a horrific “indiscriminate bombing campaign.”

この番組の最後に近い10分ほどでは、現在進行中のイスラエルによる(AI人工知能活用を含む)ガザ爆撃が、「無差別」というよりは明らかに市民を攻撃目標にしていることについて報告しています。ちなみに、ガザ空爆が開始されてからの最初の6日間でイスラエル軍は6千発という爆弾をこの狭いガザ地区に投下していますが、これほど激しい空爆は歴史上初めてのこと。

Towards the conclusion of this program, in the final 10 minutes or so, the program reports on the ongoing Israeli bombing of Gaza (including the use of AI), which is evidently targeting civilians rather than indiscriminately. It is also noteworthy that, over the first six days since the Gaza bombing commenced, Israeli forces have dropped 6,000 bombs on this small Gaza Strip, marking the first instance in history of such intense bombing.

それに続いて、最終の5分ほどで私が「纏めの発言」を行っています。事前に私に与えられた質問は「1世紀以上続いている無差別爆撃を、いかにしたら止めることができるか」という超難問でした。もちろん答えを見つけることは容易ではありません。よって、私は次のような内容のことを述べておきました。

This was followed by my concluding remarks in the final five minutes or so. The question posed to me in advance was a challenging one: “How can the indiscriminate bombing, which has been ongoing for over a century, be halted?” Of course, finding an answer is not easy at all. Consequently, I therefore opted to present the following statement instead.

1908年(ライト兄弟の飛行機による最初の人間飛行の成功からわずか5年後)に、英国の作家HG・ウェルズが書いた未来小説『空中戦(The War in the Air)』は、技術発展が政治や道徳を無意味なものにしてしまい、近代文明は爆撃機によって破壊されて、人間の道徳性が剥奪されるという内容になっている。その後の歴史は、この小説が予測したものにひじょうに似たものとなった。歴史上、無差別爆撃が戦争を早期に終わらせたというケースは実際にはないのであって、むしろ敵国の抵抗を長引かせる。無差別爆撃を続けることで、とりわけ政治家と軍指導者層の道徳観がさらに崩壊する。

In 1908, only five years after the Wright brothers’ inaugural human flight in an airplane, the British author H. G. Wells published the futuristic novel The War in the Air. In this work, technological advancement renders politics and morality meaningless, modern civilization is obliterated by bombers, and human morality is stripped away. Subsequent history has been strikingly similar to what the novel predicted. There is no historical precedent for indiscriminate bombing being an effective means of bringing a war to an early conclusion. Instead, it has a tendency to prolong the resistance of the enemy. Furthermore, the continued use of indiscriminate bombing has the effect of further undermining the moral values of those in positions of political and military leadership.

この番組を聴いたカナダの人たちが、ガザ爆撃の即刻停止を求める強い声をあげてくることを切に祈ります。

この番組は下記のURLで聴くことができます(文字起こしをして和訳する時間的な余裕が今の私にはないので申し訳ありません)。英語圏に友人・知人のおられる方は、この情報を拡散していただければ光栄です。

https://open.spotify.com/episode/3ccaLkrj3ElDQfcwexBxZE

I sincerely hope that Canadians who listen to this program will come forward with a strong call for an immediate halt to the bombing of Gaza.

You can listen to this program at the following URL. If you have friends or acquaintances in English-speaking countries, I would be honored if you could spread this information.

https://open.spotify.com/episode/3ccaLkrj3ElDQfcwexBxZE

 

田中利幸

Yuki Tanaka

Bombing Civilians: A Twentieth-Century History

https://thenewpress.com/books/bombing-civilians

Entwined Atrocities: New Insights into the U.S.- Japan Alliance

https://www.peterlang.com/document/1285367

『空の戦争史』 A History of Aerial Warfare

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210431

 

マイケル・ルーニックの今日の漫画です

軍服:退役軍人と戦争屋

2024年3月15日金曜日

ガザ訪問報告 パレスチナ人作家スーザン・アブルハワ

(1)私がガザで目撃したことはホロコーストである

(2)ガザ訪問を終えて:悲惨さを表現するには言葉は不十分

 

「デモクラシー・ナウ(今こそ民主主義を)!」の以下2つの番組は、つい最近ガザ地区を訪問し2週間滞在した、パレスチナ系米国人作家のスーザン・アブルハワへの今月6日に行われた2回連続インタヴューを、日本語に翻訳したものです。なお、インタヴュー中( )の中の文章は、翻訳者である私が補足説明として付け加えたものです。

現在のガザ地区住民の凄まじく悲惨な生活状況がひじょうによく分かりますし、インタヴューの最後では、アメリカの大学が「反ユダヤ主義だ」というバッシングをいかに激しく受けているか、その実情もよく分かります。全体的にスーザン・アブルハワの深い人間性が、彼女のいろいろな言葉に表れている、とても感動的な報告です。

 

私がガザで目撃したことはホロコーストである: パレスチナ人作家スーザン・アブルハワ

 

What I Witnessed in Gaza Is a Holocaust: Palestinian Writer Susan Abulhawa

https://www.democracynow.org/2024/3/6/gaza_update

202436日放送

 

パレスチナ(系米国)人の小説家、詩人、活動家であるスーザン・アブルハワはカイロに滞在中で、2週間のガザ滞在を終えたばかりである。「人々に起きているのは、死や身体切断、飢餓だけではありません。彼らの人間性や社会全体が、完全に虐げられ否定されていることです」とアブルハワは言う。「ラファやいくつかの中部地域で私が個人的に目撃したことは、理解しがたいものです。私はこれをホロコーストと呼びますが、軽々しくこの言葉を使うつもりはありません。(軽々しく使う言葉でないことは分かっていますが)実際にそうなのです」とも。

 

エイミー・グッドマン:

戦争と平和レポート番組「デモクラシー・ナウ(今こそ民主主義を)!」の、エイミー・グッドマンとフアン・ゴンサレスです。

 

ガザ北部に200トンの食糧を運び込もうとした国連の食糧輸送トラック車列は、本日イスラエル軍によって追い返されました。世界食糧計画(WFP)によれば、14台のトラックからなる車列は、イスラエル軍に追い返される前に、ガザ中心部のワディ・ガザ検問所で3時間待機させられました。(追い返されて、トラックが動き出すや)、車列は必死になった人々の大群に押し止められ、W F Pによると「食料が略奪され」ました。これに対して、イスラエル軍がガザ北部で援助を求めるパレスチナ人に何度も発砲し、229日には少なくとも119人が死亡しました。

 

ガザでは飢餓が壊滅的なレベルに達しています。本日、パレスチナ保健省は、栄養失調と脱水症状による死者が18人にのぼったと発表し、「飢饉は深刻化しており、侵略を止め、人道的・医療的援助が直ちにもたらされなければ、何千人もの命が奪われるであろう」と付け加えました。子供、妊婦、慢性疾患を持つ人々が最も被害を受けやすい、脆弱な立場にあります。

 

一方、イスラエルによる砲撃は続いており、今日もラファ、カーン・ユーニス、デイル・アル・バラなど、ガザ地区全域の都市で砲撃と空爆が行われています。ガザではこの5ヶ月間で、少なくとも30,700人のパレスチナ人が死亡し、72,000人以上が負傷しています。ほぼ全ての人口が家を追われている状態です。

 

もっと詳しく状況を知るために、ここで、エジプトのカイロから、スーザン・アブルハワさんに番組に加わっていただきます。アブルハワさんは、パレスチナ(系米国)人の作家で、詩人、市民活動家でもあり、多くの著書がありますが、国際的にベストセラーとなった彼女のデヴュー作『ジェニンの朝』の作者として有名です。この小説は32ヶ国語に翻訳され、パレスチナ文学の古典とみなされています。彼女は、児童団体「Playgrounds for Palestine(パレスチナのための遊び場)」の創設者兼共同責任者であり、「Palestine Writes Literature Festival(パレスチナ執筆文学フェスティバル)」の常務理事も務めています。彼女は2週間をガザで過ごし、ガザを出たばかりで、現在はカイロに滞在しています。

 

スーザンさん、「デモクラシー・ナウ(今こそ民主主義を)!」の番組へようこそ。あなたが(ガザ地区で)見聞されたことをお話ししていただけますか?あなたは「ある人たちは野良猫や野良犬を食べており、その猫や犬たちも飢えていて、時には、イスラエル軍の狙撃兵の射程圏内に入って狙撃され死亡して道路に転がっている死体の人肉骨を食べたりしている。老人と弱者はすでに飢えと渇きで死んでいる」と書かれています。あなたの今回の旅について説明してください。

 

スーザン・アブルハワ:

(今あなたが読まれた)それは、私が書いたエッセイの一部なのですが、本当に誰も行くことを許されていない(ガザの)北部地域で起きていることです。この北部に踏み込もうとするのは自殺行為です。戦車やスナイパーが配置されていて、そこに行こうとする者は誰であろうと基本的に殺されます。今おっしゃったように、支援トラックも入れません。トラックは、意図的に進入を阻止されています。基本的に、意図的な飢餓状態が作られているのです。私は主に南部のラファにいました。カーン・ユーニスやヌセイラットなど、中部の地域の数ヶ所にも行くことができましたが、ますます危険になってきています。

 

私が言いたいのは、現地の現状は、私たちが西側諸国で目にしている最悪のビデオや写真よりもはるかに悪いということです。人々が家の中に集団で生き埋めにされ、身体がバラバラに切り刻まれるという、私たちが見ているこのようなビデオや画像以上に、(今私が述べたような)日常的で大規模な生活の凄まじい衰弱劣化があります。かつては高機能で誇り高かった社会全体が、基本的に最も原始的な欲求だけ、つまり、一日に必要な水を確保できるかどうかとか、パンを焼くための小麦粉を手に入れられるかとか、そういうことだけに矮小化されてしまっているのです。そして、そのような状況はラファでさえ同じです。

 

ラファにいる人たちは、自分たちは飢え死にせずに済んでいるのだから、特権的だと感じていると言うでしょう。一方、イスラエルが基本的に99%の通信手段を遮断しているため、北部にいる家族たちと連絡が取れるのは、基本的には、北部にインターネットを維持するためのなにか独創的な方法を創り出した人たちによる通信手段だけなのです。しかし、北部のほとんどの人たちはいったい何が起きているのか分からない状態です。実のところ、ある時、みなさんもご存知だと思いますが、フェイスブックをやっているビサン・オウダ*に会いました。彼女はよく、カーン・ユーニスと北部の真ん中あたりとの境界線まで行きますが、そこから先には行けないと私に説明してくれました。彼女の説明によると、ある援助トラックが、半ば無理やりに押し通ったのですが、最終的には発砲されました。ですから、北部のほとんどの人たちは真っ暗闇と飢餓の中にいて、コミュニケーションの手段もなく、どこで食糧を確保すればよいのかもわからない状態です。

*訳者注記:ビサン・オウダはガザ地区在住のパレスチナ人ジャーナリストで活動家でもあり、ドキュメンタリー映画制作者としても有名。)

 

そして、現地で聞くことは、私たちの現実感を超えています。まさに地獄のような状態です。ラファやいくつかの中部地域で私が個人的に目撃したことは、理解しがたいものです。私はこれをホロコーストと呼びますが、軽々しくこの言葉を使うつもりはありません。(軽々しく使う言葉でないことは分かっていますが)実際にそうなのです。

 

フアン・ゴンサレス:

スーザンさん、私があなたにお訊きしたいのは......あなたはご自分の記事の中でこのように書いておられる。「ある時点では、汚物の屈辱は避けられない。ある時点で、停戦を待ちながら、ただ死を待つことになる。しかし、人々は停戦後に何をして良いのか分からない。」 停戦になったとしても…(どうなるのか)そのことについて話していただけますか?(つまり)国を再建するという点で、人々が今直面している破壊のレベルを教えてください。

 

スーザン・アブルハワ:

つまり、それだけ人々がひどく衰弱化しているということです。つまり、現時点での彼らの希望は、爆撃が止まることです。そして、誰もが家に戻りたがっています。自分の家にテントを張って、物事を解決したいという望みを語ります。でも(実際には)、多くの人が(ガザから)去ろうとしています。基本的に、頭脳流出が起きているのです。お金に余裕のある人、資金を調達できる人、他地域で仕事ができる人、専門的な技術を持っている人たちが出ていこうとしています。彼らには子どももいます。学校はすべて破壊されましたし、大学生は行くところがない状況です。

 

人々に起きているのは、死や身体切断、飢餓だけではありません。彼らの人間性や社会全体が、完全に虐げられ否定されていることです。大学も残っていません。イスラエルが意図的に学校を爆撃し破壊したのは、おそらく再建ができないようにするためであり、教育や医療、基本的には建物の基礎構造といったインフラを無くして、社会の再建ができないようにするためです。

 

エイミー・グッドマン:

スーザンさん、あなたがホロコーストについておっしゃったことについて、補足していただきたいと思います。「ジェノサイド」という言葉も使われましたね。「ジェノサイドは単なる大量殺人ではない。意図的な抹殺です」と言われました。そこから補足していただけますか?

 

スーザン・アブルハワ:

その通りです。さっきも言いましたように、イスラエルがガザで熱心に取り組んでいることのひとつは、人々の生活の痕跡を消すことなのです。つまり、個人レベルでは、思い出の詰まった家や写真、生活用品などすべてを抹消してしまうことです。ご存知だと思いますが、パレスチナ人は通常、多世代同居の家に住んでいます。私たちは移動社会ではありません。そのため、同じ家族が何世代にもわたって住んでいた家は、完全に破壊されてしまったのです。社会的なレベルでは、イスラエルは、礼拝所、モスク、古代の教会、古代のモスクなどを標的にしてきました。博物館や文化センター、図書館など、あらゆる場所が標的にされています。人々の生活の記録や、その土地での(民俗文化の)根源の名残や痕跡がある場所はすべて、意図的に抹消されています。

 

欧米のメディアが、イスラエルはハマスに標的を合わせているとか何とか言っているのを読みますと、本当にイライラします。そんなことではないのです。現地にいれば分かりますが、これは常にパレスチナ人を追い出し、彼らの居場所を奪い、地図から消し去ることを目的としているのです。つまり、1948年以前も今回も、それがイスラエルの公然の目標なのです。我々を破壊し、排除し、殺し、我々の居場所を奪う。そして、それが今ガザで起きていることなのです。1948年にも、1967年にも起こったことなのです。そして、新たなナクバ*、新たな(侵略)拡大が起きるたびに、その前よりも大きな段階的拡大が起きています。そして今、私たちは大量虐殺とホロコーストの瞬間を迎えようとしています。なぜなら、イスラエルがこのような蛮行を平然と行うことを、世界が許しているからです。

(*訳者注記:「ナクバ」とは、1948年の第1次中東戦争中に、イギリス委任統治領パレスチナの大部分がイスラエル領と宣言され、70万人のパレスチナ人が追放され、500以上のパレスチナ人の村落がイスラエル軍によって破壊されたこと、さらには難民の帰還権を否定されて恒久的な難民が形成され、パレスチナ社会が破壊されたことなど、一連の出来事を指す「大惨事」の意味。)

 

フアン・ゴンサレス:

あなたは世界の反応についても言及されましたが、そのことに関してもう少しお聞かせください。ガザでは5カ月足らずの間に、ウクライナで2年以上にわたって起きた戦争での死亡者よりも多くの人が亡くなりました。ウクライナの人口はガザの40倍です。特に欧米諸国が行動を起こさなかったことについて、あなたはどうお考えですか?

 

スーザン・アブルハワ:

西欧諸国は、道徳的権威 ― 以前はそれを持っていたとしても ― そのかけらすら失ってしまいました。あるいは、以前は道徳的権威があったかのような錯覚があったのかもしれませんが、私たちは常に、大量虐殺を行う植民地支配者を相手にしてきたことを、よく知っています。しかし、今この瞬間、世界の他の国民にはそれがより明白になってきていると思います。また、十分とは言えないまでも、アメリカ国民は自分たちが騙されていることを理解しつつあると思います。

 

エイミー・グッドマン:

それではこのインナヴューの2回目に移ります。パレスチナ(系アメリカ)人の作家、スーザン・アブルハワさん、ありがとうございます。

 

 

スーザン・アブルハワとガザ地区の子どもたち


ガザ訪問を終えて:パレスチナ(系米国)人作家 スーザン・アブルハワは「悲惨さを表現するには<言葉は不十分>」と主張

 

Back from Gaza, Palestinian Writer Susan Abulhawa Says “Language Is Inadequate” to Describe Horror

https://www.democracynow.org/2024/3/6/back_from_gaza_palestinian_writer_susan

202436日放送

 

パレスチナ(系米国)人の小説家、詩人、活動家であるスーザン・アブルハワが、ガザでの2週間を終えて、カイロから2回目のインタビューに登場。彼女は、イスラエルがガザ地区で市民を爆撃し、(パレスチナ住民を)飢餓に陥れるために米国から供給された「無制限の兵器」の影響について語る。「この瞬間の甚大さをとらえるには、言葉は実に不適切で不十分です」とアブルハワは言う。「私が見たものは、この悲惨な状況の全体像のほんの一部です」。彼女は、児童団体「Playgrounds for Palestine(パレスチナのための遊び場)」の創設者兼共同責任者であり、「Palestine Writes Literature Festival(パレスチナ執筆文学フェスティバル)」の常務理事も務めている。

 

エイミー・グッドマン:

戦争と平和レポート番組「デモクラシー・ナウ(今こそ民主主義を)!」の、エイミー・グッドマンとフアン・ゴンサレスです。ガザ地区で今何が起きているのかについての私たちの議論を続けます。

 

世界食糧計画(WFP)は、ガザ北部の飢饉を回避するために必要な重要な支援物を届けるのをイスラエル軍が妨害していると非難しました。現地の保健当局によれば、ここ数日で少なくとも18人の子供が餓死したということです。米国のバイデン政権は、イスラエルが支援物資の輸送を妨害しているにもかかわらず、イスラエルに武器を送り続けるという決定を自己弁護しています。ジョン・カービー米国家安全保障通信顧問は火曜日(35日)、ホワイトハウスで英国紙『インディペンデント』の特派員であるジャーナリスト、アンドリュー・ファインバーグから質問を受けました。

 

ファインバーグ:イスラエル政府が援助を認めないのであれば、米国は武器の供給を継続しないということを、大統領がイスラエル政府に伝えることを、何が妨げているのでしょうか?援助がなければ爆弾もないと

 

カービー:ハマスの脅威から自国を守るために必要なものをイスラエルが持つことが重要だと大統領は考えているからです。107日に起きたことを忘れている人もいるかもしれないが、バイデン大統領は忘れていません。

 

エイミー・グッドマン:

パレスチナ(系米国)人の小説家、詩人、活動家であるスーザン・アブルハワさんに再びご登場願います。彼女のデビュー作『ジェニンの朝』は32カ国語に翻訳されている世界的ベストセラーで、パレスチナ文学の古典とされています。彼女は、児童団体「Playgrounds for Palestine(パレスチナのための遊び場)」の創設者兼共同責任者であり、「Palestine Writes Literature Festival(パレスチナ執筆文学フェスティバル)」の常務理事も務めています。彼女はエジプトのカイロから、私たちのインタヴューの2回目に参加します。

 

スーザンさん、これを聴いているあなたは、まだアメリカに戻っておられませんが、質問です ― なぜアメリカはイスラエルに武器を提供し、飢餓に苦しむ人々への食糧支援を妨害しているのでしょうか?あなたが現地で見てこられたこと、そして外部の人々が見ていないと感じていること、特に米国がこの問題を助長していること、そしてあなたは通常ここ(米国)に住んでいることから、米国人が今起きていることをどのように理解しているのか、また理解すべきなのか、説明を続けてください。

 

スーザン・アブルハワ:

アメリカが無制限の武器と資金援助を提供してきた重要な同盟国(イスラエル)が、実際には(ガザ地区住民に)爆撃を加え飢餓させているために、アメリカが飢餓に苦しむ人々に一握りの援助物資を空輸しようとする ― 実際にはそれは見せかけのお芝居なのですが ― ことの不条理さが、アメリカ国民に、まだ明らかになっていないとしても、(間もなく)明らかになるように私は望んでいます。

 

「イスラエルは自国を防衛している」といまだに言っていることを、まともな人間なら、あるいは良心のある人間なら、このような言葉がなぜいまだに公の場で語られているのか理解するのは難しいです。ガザ住民は、世界で最も人口密度の高い場所に住む、主として無防備な民間人です。彼らは20年以上にわたって、強制収容所に等しい場所に監禁されてきたのです。占領されてきたのです。この地域で最も強力な軍隊によって何度も繰り返し爆撃されてきたのです。そして、この核保有国が、民間人を自衛しているという話を、いまだにしているわけです。どうしてこんなことが真顔で語られるのか、私には理解できません。

 

この不条理は、西欧の植民地主義の犠牲となった南半球のほとんどの人々には明らかなのです。しかしどういうわけか、欧米社会ではいまだにこの主張が有効であるように思われています。とはいえ、特に情報獲得に関してはより高度な知識を持っている若い世代では、そうでもないのですが。ソーシャル・メディア・プラットフォームによる検閲が蔓延しているにもかかわらず、人々はまだ現地から情報を得ることができますし、アーロン・ブッシュネル*がしたような無私で過激な行為も見られます。

(訳者注記:米空軍兵士のアーロン・ブッシュネルは225日に、ワシントンのイスラエル大使館前で、<パレスチナ人の大虐殺に対する究極の抗議行動>として自らの身体に火をつけ、自死した。)

 

私は率直に言って、公式のスポークスマン(が言うこと)や選挙政治に関して、芝居じみた政治的なものだと感じるものにはあまり関心がありません。それよりも、変化が実際にどこで培われ、どこから生まれるのか、つまりボトム・アップ(下からの動き)に興味があります。私は、学生も教員も同様に狙われているにもかかわらず、いまだに大学キャンパスで起こっている抗議活動に興味があります。私は、世界中の街頭(での抗議活動)で、何十万人もの人々が首都に押し寄せ続けていることに興味があります。イスラエル製品の不買運動に参加している人々にも興味があります。私の関心はそういう所にあります。支配者であるエリートたちは、率直に言って、この大量虐殺を成し遂げようと躍起になっているように見えますが、同時に、ますます反発を強めている世論をなんとか和らげようと、リップサービスに終始しています。

 

フアン・ゴンサレス:

スーザンさん、お訊きしたいのですが、あなたは「Playgrounds for Palestine(パレスチナのための遊び場)」という子どもたちの団体の共同代表を務めていますね。なぜその団体を設立したのですか?また、パレスチナの子どもたちがこの5ヵ月間に経験した心的外傷(トラウマ)の大きさ、そして紛争が終わった後に彼らが受けるであろうカウンセリングの必要性、精神的な修復の必要性についてお聞かせください

 

スーザン・アブルハワ:

「パレスチナのための遊び場」は、私が現地に滞在している間、子どもたちの心理的な応急処置として、多くの子どもたちの活動を促進する役目を果たしました。率直に言って、子どもたちだけではなく、(ガザ地区住民の)誰にとっても心的外傷は計り知れないほど酷いものです。私は、特に、病院で治療を受けている多くの女性や、治療を受けている子供に付き添っている女性から話を聞きました。彼女たちの話は、まるでハリウッドのホラー映画のようでした。イスラエル兵が自分の背中の皮膚に絵や笑顔、ダビデの星などを彫った姿の写真も、私は入手しています。ガザ地区の彼女たちは私に、イスラエル兵が何百人もの女性を地面に寝かせて、レーザーの付いた銃を構えて、笑いながらレーザーが当たったところを撃つのだと話してくれました。

 

私は、3歳の娘が両足を粉々にされ、病院で治療を受けている母親と話をしました。その女の子は兵士に故意に ― そうです故意に撃たれたのです。彼女の娘にこのようなことが起きたのは、兵士たちが、最初、彼女の息子の頭を撃ち抜いて殺したその後でした。

 

多くの人たちが病院から(追い出されて)歩かされ、その中には重傷を負った人々もおり、安全な場所まで何時間も歩かされます。自宅から逃げて南部に行こうとする子どもたちや人々は、両手を上げて身分証明書を掲げて歩かなければならず、誰かが下を向いたり何かを拾ったりしようものなら、狙撃されます。文字通りスナイパーで撃たれます。

 

8歳くらいの女の子と話をしましたが、その子の顔はひどい火傷を負っていました。でも、彼女の怪我は家族全員の中で一番軽かったのです。家族全員が全身に第III度の火傷を負っていました。彼女は私に(いろいろ)説明してくれたましたが、やはり、子どもがいったいどうやって生き延びるのか、私には分かりません。

 

私は病院の産科病棟で過ごしましたが、そこでは新生児が生まれたばかりで、生死不明だったり、生死はわかっていても家族が不在だったり、(その家族に)何が起きたのか誰も知らないのです。これらの新生児は、24時間365日、保育器の中に入れられたままですが、看護師や医師は働きすぎて疲労困憊しているため、授乳に来るときを除いては、新生児は人の手に触れられることはありません。人々は傷だらけで病院から退院し、水道も適切な衛生設備もないテントに入り、ひどい感染症にかかり、敗血症で死んでいきます。

 

浜辺での生活は、(もともとは)パレスチナの人たちが楽しみ、愛しあい、家族と一緒にいる場所だったのです。今は、ここが拷問の場所になっています。砂浜にテントがたくさん張られていて、砂があらゆるものに入り込んできます。人々の肌は肌焼けしています。子どもたちは、太陽と砂で頬が(乾燥して)ひび割れたまま、歩きまわっています。食べ物の一口一口にも砂が入ってきます。

 

(ガザ地区南部の)ラファに入ってくる食料は、主に缶詰です。そして、そのほとんどは ― 先ほどあなたが暗示されたと思いますし、私も実際に見て、味わったことがありますが ― 明らかに何十年も棚に置かれたままになっていたものです。缶詰の中身は嫌な匂いがしますし、金属的な味しかしません。

 

トイレは他の何百もの家族と共有しているために、毎日、トイレにいつ行くかということを中心に、人々は一日のスケジュールを立てます。衛生面で最善を尽くそうとしても、それは不可能なのです。そして、人々がこのような不潔な暮らしに屈するとき、人々は......たぶん欧米の人たちは、黒人や褐色人種の多くは常時このような不潔な暮らしをしているのだと、衝動的に考えてしまうのだろうと思います。だから、私たちが実際に不潔に暮らしているわけではないことを説明しなければならないのは、少し屈辱的なことです。何カ月もこのような生活を余儀なくされ、子どもたちを守る手段も、希望を与える手段も恐怖を鎮める術もないというのは、想像を絶する卑劣なことなのです。

 

ご承知のように、テントにはプライバシーはありません、なぜなら全家族に行き渡るだけの数のテントがないからです。だから家族はバラバラで、あるテントには何十人もの女性がいて、別のテントには別の何十人もの女性がいるという状態です。そのため、最も配慮(をしてくれる相手)が必要な夜に、配偶者同士が抱き合うことさえできないのです。このような細かな(配慮欠如問題の)ことが、子どもたちや両親、高齢者の集団的トラウマになっているのです。

 

住民には薬がありません。インシュリンが手に入らないため、多くの人が死んでいきます ― ちなみに、イスラエルはインシュリンのガザへの持ち込みを禁止しています。汚染された水を飲んでいるため、下痢で死んでいる人たちもいます。イスラエルは、水処理、浄水器、携帯型の浄水器 ― アメリカ人がキャンプに行くときに使うような簡単な個人用浄水器 ― (の持ち込み)さえも禁止しています。

 

エイミーさん、(社会環境の)悪化は本当にひどいものです。その上、ラファも、日毎、爆撃を受けています。私の滞在中に、爆撃音が聞こえなかった夜は一日もありませんでした。少なくとも一度は、私がいたビルが激しく揺れるほどの近距離が爆撃されたので、私たちのビルが実際に攻撃されたのかと思ったくらいショックでした。でも、それは私がいたビルのもうひとつ向こうのビルだったのです。もう一回は、私たちがいた病院のそばのテントが爆撃されたこともありました。なんと、テントを爆撃したのです。そのテントは、ビサン・オウダ*がいたテントに隣接していたのです。彼女たちは地面に座って食事をしていましたが、砲弾の破片が彼女らの頭上を飛んでいきました。(*訳者注記:ビサン・オウダはガザ地区在住のパレスチナ人ジャーナリストで活動家であり、ドキュメンタリー映画制作者としても有名。)

 

これが日常なのです。誰もが死ぬことを予期し、愛する人を失うことを予期しています。そして実際そうなるのです。そして、もう一つ私が気づいたことがあります。それは、人々が自分の身に起きていること、あるいは起きたことを話すとき、一種の無関心さがあるのです。ある種の自己防衛手段なのでしょうが、自分の精神を麻痺させてようとしているのです。ですから、彼らが一息つく機会を得たときに、これらの悪魔、この恐怖、この心的外傷は、大惨事のもう一つ別の層を形成し、ちょうど失われた世代(の特徴)になるのではないかと思います。

 

エイミー・グッドマン:

スーザン・アブルハワさん、すでにラファが爆撃されているとあなたは言われます。日曜日にはラマダンが始まります。停戦交渉が行われているはずですが、イスラエルのネタニヤフ首相はラファへの全面的な地上侵攻を予告し続けています。これは現地の状況にとって何を意味するのでしょうか?

 

スーザン・アブルハワ:

エイミーさん、想像してみてください。つまり、140万人の人間が、ヒースロー空港の大きさに相当するような狭い地域に詰め込まれた場所で、地上侵攻に巻き込まれるのを想像してみてほしいのです。ガザ地区の通りに出れば、人でギュウギュウ詰めです。つまり、まるでアメリカのコンサート会場にいるような人ごみなのです。しかも年中無休状態です。人々はほとんど歩く場所がありません。車が1ブロック進むのに20分かかるかもしれません。車は徒歩やロバ、馬の往来と競わなければなりませんからね。とにかくギュウギュウ詰めなのです。完全に渋滞している状態です。

 

そしてもうひとつは、賃貸アパートもあるにはあるのですが、人々はアパートを借りるのを怖がります。なぜなら、テントよりもビルが爆撃される可能性のほうがずっと高いからです。テントも爆撃されていますけれどね。でも、これが、なんとか人々ができる選択なのです。

 

ああ、どうなのでしょう......他にどう描写したらよいのか分からないけれど、これはホロコーストなのです。見たこともないような光景なのです。2002年、イスラエルがジェニンで大虐殺を行ったとき、私はジェニンにいました。そのとき私は最悪のものを見たと思いました。ところがこれは、私がこれまでに個人的に見た何ものよりも、またハリウッドのホラー映画で見たものよりも、はるかにひどい状況です。

 

歩いているだけで、外を歩いているだけで、感じるのです。最初に感じるのは、(全てが)ただ一色だということ。灰色なのです。悲惨な灰色なのです。人々の顔は灰色に塗られているような状態です。なぜなら、顔を洗うことができないから。さらには、ガソリンがもうないから、2つの選択肢のうちの1つに頼っています。一つはソラール(Solaar)と呼ばれるもので、汚れたガソリンを混ぜ合わせたものです。もうひとつはシアラージュ(食用油)です。この2つのうち、シアラージュが一番安くて、車を持っている人が使います。恐ろしく酷い臭いがします。あらゆるものに付着します。肺にも付着する物質です。そして将来、この焼却灰による大規模な肺疾患が発生することになるでしょう。破壊によって生じた埃や瓦礫が常に霞のように立ちこめ、それがなかなかおさまりません。通りを歩けば、空気の重さを感じます。他にどう表現したらいいか分かりませんが、息苦しいのです。文字通りの意味でも、比喩的な意味でもね。そして、海に行って少し風を感じようとするのですが、そこにもまた悲惨さがあるのです。

 

エイミー・グッドマン:

あなたが最も関心を抱いているのは草の根運動であり、世界各地であれ、ここ米国であれ、人々が抵抗するために現場で行っていることだとおっしゃいます。ペンシルバニア大学のエリザベス・マギル学長は、反ユダヤ主義に関する質問と議会での論争の的となった証言をめぐって、共和党主導の激しい反発を受け、昨年12月に辞任を表明しました。ペンシルバニア大学の大口寄付者たちは、彼女が学内で開催される「パレスチナ執筆文学祭」の中止を拒否したため、9月からマギル氏の辞任を求めていました。あなたはその文学祭の常務理事ですね。マギル学長は辞任を余儀なくされました。彼女の辞任を発表したペンシルバニア大学理事長は、その後自ら辞任しました。この論争について話していただけますか?これは107日以前から起こっていたことです。

 

スーザン・アブルハワ:

そうですね。つまり、想像してみていただきたいのですが、彼らが文学祭に大騒ぎしたのです。率直に言って、文学祭は私たちパレスチナ人にとって、とても美しい主体性(表現)の瞬間でした。パレスチナのあらゆる地域から、ガザ、エルサレム、レバノンのキャンプ地、ヨルダン、アラブ世界のその他の地域、さらにはアメリカなどへと、48年と67年に離散した芸術家や作家たちが、ナクバ以来初めて一堂に会することができたのですから。私たち全員にとって、この上ない喜びの瞬間だったのです。集まった人々は涙を流しました。こんなことは見たことがありませんでしたし、経験したこともなかったのです。

 

私たちは、パレスチナ刺繍からクィア(性的マイノリティ)文学まで、あらゆることについて語り合いました。作家にインタビューを行い、その著者たちの本についても議論しました。子供向けのプログラムもありました。食べ物や料理の伝統についても話し合いました。素晴らしい写真と芸術作品の展示があり、私たちの生活やパレスチナの先祖の写真、昔に撮られた写真にまで遡ることができました。私たち全員にとって、本当に信じられない瞬間でした。そして、ペンシルバニア大学の建物の壁の中は、計り知れないほどの愛が満ちていました。

 

しかし、外では数週間前から私たちに対して並々ならぬ憎悪が向けられていたことも知っていました。文学祭の期間中、デジタル掲示板がキャンパス内を歩き回り、私を含む多くの登壇者の写真が悪魔のような色に塗られ、私たちをイスラム聖戦士やナチス呼ばわりし、その他の中傷的な言葉でも呼んでいました。

 

そして文学祭の後、評議員の一人であった(ユダヤ人の)マーク・ローワンが、リズ・マギル学長の辞任を評議員の中で最も声高に訴えたのです。彼は億万長者で、ビジネス・ジャーナリズムを書くジャーナリストたちから聞いたところでは、(ジャーナリストたちは)彼をビジネス界の反キリスト者と呼んでいるそうです。しかし、いずれにせよ、この男は全国ネットのテレビ番組に出演し、映画祭について嘘の論説を書きました。つまり、あるとき彼は、私たちがユダヤ人の大量虐殺を呼びかけていると主張したのです。さて、私たちはみな、彼らが内部で(密かに)録音していることを知っていました。これは予想されたことです。(そんなことが行われることは)マルコムX(の経験)から私たちは学んでいます。私はそのことを冒頭のスピーチで述べましたし、私たちを監視するために来るすべての人々を歓迎しました。しかし、(文学祭の期間中は)ローワンはそのような(嘘の)主張らしきものを一度も口にしたことはありませんでした。なぜなら、それは嘘だからです。

 

しかし、彼らはそのような嘘を言い続け、誰もそれに異議を唱えなかったため、事実であるとされてしまいました。そしてマーク・ローワンは、この文学祭を107日の事件にまで結びつけようとしたのです。本当に、うんざりです。でも、これはシオニスト(ユダヤ民族主義者)のプロパガンダなのです。私たちは、それに続いて、(107日のテロ攻撃では)40人の赤ん坊の首をはねたという嘘や、集団レイプを行ったという主張にも悩まされました。ありがたいことに、この問題に注意を払う人々によって、こうした嘘は解体されつつあります。ただ、そうした嘘は止まらないし、異議を唱えられることもないのです。私は、物事に疑問を持つ若い世代に希望を持っています。そして、彼らは、上の世代が続けているような方法で嘘をそのまま受け入れるというようなことはありません。

 

エイミー・グッドマン:

ガザに行かれたときには、スーツケースを幾つも持参されましたね。ガザに持ち込んだものについて話してください。また、スーザンさんは文章を書くワークショップを開きましたね。人々が語った話についても話していただけますか?

 

スーザン・アブルハワ:

薬からおむつ、生理用ナプキン、生理用ウェットティッシュ、ボディ・ティッシュ、石鹸、シャンプー、補聴器の電池まで、たくさんのものを持ち込みました。聴覚障害者の人たちは、補聴器用電池の不足によって壊滅的な打撃を受けています。特にコミュニケーションを補聴器の機能に頼って学んでいる子供たちには、そのせいで学習が後退してしまっているのです。私たちはコーヒーを届けました。それはとても大きな贈り物でした。何カ月もコーヒーを飲んでいない人たちがいたのです。何カ月もコーヒーを飲んでいなかった人たちにとっては、まるで金の箱をプレゼントしたように喜ばれました。持ち込めるものはすべて持ち込みましたし、実際、ガザを去るときには私は着の身着のままでした。人々は文字通り、着の身着のままで家から逃げ出しました。スーツケースに荷物を詰めた人たちも、重くなって道端に置き去りにしたり、兵士に捨てさせられたりしたのです。

 

私たちは肉体的な要求について多くを語ります。なぜなら、飲料水、食料、避難設備はとても重要ですから。しかし、心理的な欲求や知的な欲求もあります。つまり、私たちは単に肉体的な生き物ではありません。ガザの人々は、自分の潜在能力を発揮したいと思っています。現在進行中のイスラエルによる攻撃が、ガザのパレスチナ人をここまで縮小させるために最大限の努力を尽くしたにもかかわらずです。そして彼らは、パレスチナ人をダイエット(減食)させるなどと言っているのです。しかし、このような制約にもかかわらず、爆撃にもかかわらず、パレスチナ人は依然として、再建の道を探ろうとしていますし、大学への進学、学習、ビジネスや仕事を確立する方法も考えています。イスラエルはそれ(パレスチナ人のそうした態度)を嫌っているのだと私は思います。彼らはそれを憎んでいるのです。そして、私はそれが......つまり、この種の憎しみを助長している要因のひとつだと思います。(イスラエルの)社会全体がパレスチナ人の苦しみを喜んでいるように見えるのです。

 

私たちは若者のグループと作文ワークショップを開催しました。彼らはみな、何らかの形で創造的です。彼らが語るストーリーはなんとも悲惨なものでした。率直に言って、彼らの前にいること自体が屈辱的でした。私はある記事で次のように書きました。耐え難いことを耐え忍んでいるのに、それでもなお寛大で親切な人たち、その人たちを前にすると、自分が小さく感じられます。私はこのネックレスと手作りのジュエリーを身に着けていますが、これらは、何も持たず、すべてを失い、どうにかして威厳と寛大さともてなしの習慣を保っている人たちが、私にどうしても受け取れと言ってくれたものです。非常に謙虚な気持ちになります。

 

作文ワークショップは2日間のイベントで、毎日4時間ずつでした。初日は、作文の練習をしたり、作文技術について話したりしました。そして2日目はストーリーを練り上げること。彼らの文章のレベルの高さにはとても驚かされました。私は、これらの作品集を編集することをとても楽しみにしています。なぜなら、この瞬間を生きてきたガザの人々が、まさにこの瞬間を語り継ぐべきだと思うからです。他の誰でもなく、私のような外にいるパレスチナ人でもない。そして私の目標は、私がこれまでの人生で身につけた技術を彼らに提供し、彼らが世界中の人々に向けてこの瞬間について語ることができるようにすることです。私は彼らと一緒にこの本を作り出すのをとても楽しみにしています。

 

エイミー・グッドマン:

そして最後に、スーザンさん、医療界や医療従事者についてお話ししていただけますか?あなたは著名な小説家ですが、医学や科学の分野での背景もお持ちです。病院や救急車の爆撃の打撃、医療従事者、医者、看護師、救急医師などについて語っていただけすますか?

 

スーザン・アブルハワ:

彼らは、今起きていることの多くの矢面に立たされています。医師や行政官の多くがテント生活を余儀なくされています。ですから、ガザに援助要員としてやってくる外国人のために安全性や水道などを確保できる一部のNGOを除いては、安全に生活できる場所はありません。しかも、ガザの医師や看護師の多くは、何カ月も給料をもらっていないにもかかわらず、それでも仕事に出てきます。彼らは疲れ切っています。彼らは弱気になっています。彼らの誰もが、家族や友人、隣人を失っています。彼らの大半は家を失い、避難生活を送っています。彼らはみな、何らかの形で困惑し、この瞬間をただなんとか機能しようとしており、停戦を祈っています。

 

すでに言いましたように、現時点では、停戦は人々の希望が手に届かない高い天井のようなものと思えます。ラマダン(断食月)を間近に控えた今、それは特に深刻です。ラマダン期間中もイスラエルが空爆を続けるというのは......「想像を絶する」と言いたいところですが、私たちはとっくの昔にその最小値のレベルを越えています。この瞬間の重大さをとらえるには、言葉は本当に不適当で不十分です。私が見たものは、この恐怖の全体のほんの一部でしかないことを強調したいと思います。

 

エイミー・グッドマン:

スーザン・アブルハワさんのデビュー作『ジェニンの朝』は32カ国語に翻訳された世界的ベストセラーで、パレスチナ文学の古典とされています。彼女は、児童団体「Playgrounds for Palestine(パレスチナのための遊び場)」の創設者兼共同責任者であり、「Palestine Writes Literature Festival(パレスチナ執筆文学フェスティバル)」の常務理事も務めています。彼女は2週間をガザで過ごした後、ガザを発ったばかりで、エジプトのカイロから私たちに話していただきました。インタヴューをさせていただいたのは、エイミー・グッドマンとフアン・ゴンサレスでした。スーザンさん、ご出演ありがとうございました。