「慰安婦少女像を爆破しろ」という杉田水脈とメルボルン桜会の動きについて
今月1日、安倍政権は韓国・釜山の森本康敬総領事を退任させましたが、たった1年ほどでの退任は事実上の更迭であることは間違いありません。その理由は、森本領事が私的な会食の場で安倍晋三の「慰安婦問題」をめぐる韓国との対応を批判したからということが、複数の政府関係者の話として報じられているとのこと。「私的な会食」でということは、その会話の内容を密かに安倍あるいは、安倍に近い人物に伝えた人間がいるということです。なんとも恐ろしく汚れた世界ですね。そしてつい先日、米国ジョージア州アトランタの篠塚隆日本総領事が、同州の小都市ブルックヘブンの市立公園の中に「平和の少女像」(いわゆる「慰安婦少女像」)が建立されることに反対して、「慰安婦は売春婦」、「少女像は単純な芸術造形物ではない、日本に対する憎悪と怒りの象徴物だ」と主張し、物議を呼んでいます。
この2つの事件から、おそらく外務省の領事レベルの官僚にまで、安倍政権の「慰安婦」問題に関する相当強い圧力がかかっているのだということが推測できます。それにしても、篠塚の言動は低劣ですね。「少女像」が「日本に対する憎悪と怒りの象徴物」であると考えるなら、ごく普通の人間なら、ではなぜ日本は韓国からこの問題で「憎悪と怒り」を買うのか、その理由について考えるはずですが、そうした思考さえ働かないようです。私自身は、「憎悪と怒りの象徴」ではなく、性暴力被害者の「痛みと悲哀の象徴」であると考えます。「憎悪と怒り」を恥ずかしくもなく国内外でマル出しにしているのは、むしろ安倍晋三であり、そんな恥ずかしい「憎悪と怒り」を、これまた恥ずかしくもなく代弁する領事には軽蔑感しか感じません。
ちなみに、「日本軍性奴隷」問題に関しては、最近、とてもよいアニメが制作されたことを、広島の「日本軍『慰安婦』問題解決ひろしまネットワーク」のあるメンバーの方から教えていただきました。下記がそのアドレスです。https://m.blog.naver.com/herstory2011/221033430219
このアニメの中の元日本軍兵であった老人の証言は、本名が根本長寿さんという、本当に戦時中に捕虜を殺し「慰安所」にも出かけた自分の体験を証言されているその生の声をそのまま使っています。このアニメを見て思い出すのは、井上俊夫著『初めて人を殺す 老日本兵の戦争論』(岩波現代文庫)です。この著作に関しては、私のこのブログの下記アドレスを参照していただければ光栄です。
なおまた、根本長寿さんは今年4月に97歳で亡くなられましたが、お孫さんの根本大さんがすばらしいサイトを開設されています。
実は、「日本軍性奴隷」問題では、最近、メルボルンでもある事件が起きました。ごく最近メルボルンで立ち上げられたと思われる「メルボルン桜会」(ごく少人数の日本人女性の集まりのように思えます)なる組織が、これまた低劣極まりない杉田水脈(すぎたみお)なる右翼女性を日本から招いて、メルボルン郊外のベイサイド市のハンプトン・シニア市民クラブを会場に、今月11日に講演会を開く予定であるという情報が、私に入ってきました。杉田水脈などという人物については、それまで私は聞いたこともないので、少し自分でも調べたり、他の人たちにも尋ねてみました。
彼女は前衆議院議員(いまの国会議員の知的低劣さからみれば、彼女が議員であったことも全く不思議ではないですが)で、日本軍性奴隷制度(いわゆる「慰安婦制度」)などは 存在しなかったのであり、「慰安婦」は多額のお金を受け取っていた売春婦であるという類の主張を、日本国内のみならず、米国や国連の女性差別撤廃委員会の場にまで顔を出して行っており、国連人権委員会のメンバーにも、戦争被害者の人権保護という観点から極めて問題のある人物とみなされているらしいです。さらに、杉田は、韓国や米国の「慰安婦少女像」は爆破すればよいと、テロ行為を扇動するような発言までしています。彼女はまた、アジア太平洋戦争中に日本軍が各地で犯した様々な残虐な戦争犯罪行為の歴史的事実とそれらに対する日本の責任を全面的に否定する「日本会議」にも連なっているようです。
こんな人物が、いくら少人数の在豪日本人のグループを相手にとはいえ、戦争犯罪の犠牲者である元「日本軍性奴隷」の女性たちの人権を再び蹂躙するような講演会をやることを、黙って見過ごしては絶対にならないと思いました。「日本軍性奴隷」にされたオランダ人女性の一人、ジャン・ラフ・オハーンさんは、戦後、オーストラリアに移住され、アデレードに今もご健在ですので、なおさら許せないことです。私は、当日、会場に出かけ、講演の邪魔は決してしないが、講演者には厳しい質問を浴びせ、同時に、「日本軍性奴隷」に関する基本的な情報を伝える私が作成する資料と、広島から急遽送ってもらうことになった日本軍「慰安婦」問題解決全国行動が作成したリーフレットを参加者に配布することにしました。
配布する資料を私が作成している間に、私が聞いたところでは、主催者が、講演の宣伝依頼を英語で発信し、講演会のチラシ(日本語)が添付されていたそうです。ところが、英語で書かれた依頼と、日本語のチラシの内容が全く違う。そこで、依頼が回ってきた人は、会場を提供している市に問い合わせたそうです。はじめてチラシのことを知った市側は検討の結果、主催者が正しい手続きを踏んでいなかったことが判明したので、使用中止にしたとのことです。使用中止になったのが、講演日の数日前でした。
メルボルン桜会は、会場を変更しても11日には講演を実施することをソーシャル・メディアで発表しましたが、会場と時間については当日になっても発表しませんでした。したがって、会場がどこになったのか分からなかった私は、出席することができませんでした。おそらく、どこからか講演者や講演内容に関する情報がベイサイド市役所に流されて、邪魔されたとメルボルン桜会では考えたのでしょう。再度邪魔されるのではないかと不安になって、会場と時間の詳細を会員とその知人にのみ個人的に知らせたと思われます。おそらく参加者はひじょうに少なかったと思います。後日、分かったことですが、会場は元の会場と同じ地域にあるパブの一室を借りて開いたとのこと。(ちなみに、メルボルン桜会は「南京虐殺否定」に関する映画上映会を7月7日に開くことを計画しているようですが、これについても会場と時間を発表していません。)
ところが、問題なのは、この講演会にメルボルンの新任の松永一義総領事が出席したということが、杉田の講演後のフェイスブックでは書かれています。この真偽のほどを確認するため、私を含む数名のオーストラリアの日本研究者の連名で、松永総領事が本当に出席したのかどうか、出席したのであればどのような目的で出席したのかを問い合わせる書簡を先週、総領事宛に送りました。その書簡の内容の詳細はここでは紹介しませんが、総領事の回答があれば、このブログで紹介します。
杉田は、やはり講演後のフェイスブックで、私の個人名をあげ、おそらく私が講演の邪魔をしたのであろうと書いています。私の存在が彼女に知られているのは光栄には少しも思えませんし、私は彼女の講演を止めさせようなどとは考えもしませんでした。すでに説明したように、最初の講演会場が使用中止なったことは、私自身も後で聞くまで知りませんでした。右翼であろうと左翼であろうと、誰であろうと、言論思想の自由を侵されてはならないことは言うまでもありません(ただし、ヘイトスピーチのように、個人の名誉と人権を侵すような言動は決して許されてはなりませんが)。私は、むしろ、会場に出かけて、厳しい質問を浴びせ、資料配布ができることを望んでいました。それはともかく、彼女は、私が「日本軍性奴隷」問題に関する英語の本を出していることも人伝に聞いているようですが、読んだことはないらしく、題名を『チャイニーズ・コンフォート・ウーマン』と全く間違って書いています。「せっかく紹介するなら、正しい題名を使ってくれ!」と言いたくなります。私のこの英語の本は、Japan’s Comfort Women:
Sexual Slavery and Prostitution during World War II and the US Occupation (Routledge 2002)です。
ちなみに、安倍や安倍のお仲間右翼が「慰安婦は売春婦だった」というのにはもちろん私は反対ですが、実は、「慰安婦は売春婦でなかった」という言い方にも私は少々違和感を感じるのです。私自身も「慰安婦は売春婦でなかった」という言い方をしばしば使いますが、違和感を感じながら使っています。なぜなら、私は、売春婦も(本人が自覚していようがいまいが)根本的には「性奴隷」であるというのが私の考えだからです。「慰安婦は売春婦でなかった」と言うことで、売春婦の女性を差別し、買春を肯定してしまうことがここには隠されているからだと思うからです。売春婦が、なぜ根本的には「慰安婦」と同様に性奴隷であるのかについての持論は、すでに私は自分の論考「国家と戦時性暴力と男性性」で詳しく説明していますので、ご興味のある方はこれをご参照ください。実は、この論考は、上述の私の英語著書の結論部分だけを日本語にしたものです。
いまはあまり時間がないので、もうこのへんで今日は終わりにしますが、杉田の講演会で配布しようと思い作成した資料もダウンロードできるようにしておきます。右翼が主張するような内容と思われる想定質問の設定を行い、それに回答するという形で「日本軍性奴隷」問題の基本情報を提供しています。活用していただければ光栄です。ご自由に編集しなおして使っていただいても結構です。
「国家と戦時性暴力と男性性」
日本軍性奴隷に関する質問と回答
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