聞くところによると、毎年、文科省は、各県の小中高の校長各1名に「教育賞」という賞を与えるために、全国から100名余りを年末に本省に集め、賞状を渡した後、皇居に連れていき、天皇に「拝謁」させ、記念写真を一緒に撮るという行事をやっているそうです。広島県でも、その「教育賞」に選ばれた校長が、2月に広島市内の高級ホテルで、盛大に祝賀式をやったそうです。
「天皇陛下に拝謁した校長の祝賀会に顔を出してお祝いの言葉を述べないとまずい」、という忖度意識が同じ学校の教師の間には必ず発生するでしょうから、この校長は学校内では結局「小天皇」となるわけで、かくして「天皇制イデオロギー」が職場にも浸透していくわけです。これが「我らの内なる天皇制の社会的浸透」といわれる現象です。こういう天皇崇拝と天皇崇拝者の自己賛美が教育行政において年中行事化してしまっており、「我らの内なる天皇制」を自分の意識に強く浸透させた多くの教師たちが、教育現場で子供たちの教育にあたるわけです。
「個々人の個性や考えは表にはできるだけ出さず、目上の者から言われたことには反対しないで極力従う」、そのことで「仲間たちの間での<和>を保つのだ」、「それが平和というものなのだ」、「その<和>を保てない異質なものは排除する」という「内なる天皇制」。ここからは、「個人の異なった個性と思想を互いに尊重しながら、いかにすれば豊かな人間関係を創り上げていくことができるのか」という思考が産まれてこないのは当然です。学校で教師と子供たち全員に「日の丸・君が代」を強制するというのは、まさにこの「我らの内なる天皇制=草の根のファシズム」を浸透させる強力な手段なのです。
「我らの内なる天皇制=草の根のファシズム」を打ち崩し、少しでも日本の「民主主義」を本来の意味での「民主主義」に近づけるためにも、「日の丸・君が代の強制」を止めさせることが重要です。
その観点から、今、広島で展開されている「日の丸・君が代の強制」反対運動を紹介させていただきます。
なお、この続編として次回は、私の生まれ故郷である福井県永平寺町の中学校での「無言清掃」なるものをとりあげて批判します。
田中利幸
--------------------------------------------------------
2020年2月13日
広島県教育委員会
教育長 平川 理恵 様
卒業式・入学式で「日の丸・君が代」を強制しないことを求める要請書
教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま
共同代表:石原顕、内海隆男、菊間みどり、柴田もゆる
連絡先:082−229−0889 (石原)
私たちは、2003年以来、卒業式・入学式シーズンを前に「日の丸・君が代」の強制に反対し、子ども・保護者・教職員の「思想・良心の自由」の保障を求める要請書を毎年貴教育委員会に提出しており、今年で16年目になります。しかし残念ながら、貴教育委員会には私たち市民からの要請に耳を傾ける姿勢が一向に見られないどころか、「日の丸・君が代」の強制に関わって教育行政の認識及び事態はますます悪化の一途をたどっているようです。
私たちが2003年当時から一貫して「日の丸・君が代」の強制に反対してきたのは、それが民主主義社会の根幹である基本的人権、特にその核心をなす思想信条の自由を侵害する行為だからです。戦前の大日本帝国憲法下で、基本的人権の保障が蔑ろにされ、最終的には天下の悪法である治安維持法によって思想信条の自由が踏みにじられた結果、2000万のアジア民衆を殺戮する侵略戦争を犯すに至りました。これが、歴史修正主義者たちがいくら消したいと思っても消すことのできない我が国の歴史です。その痛切な反省に立って獲得された日本国憲法の大原則を「時代にそぐわなくなった」等の虚言によって反故にすることはできません。
さて、2017年6月に制定された「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」に基づき、昨年(2019年)4月30日に前天皇が退職し、翌5月1日に新天皇が世襲によって新たにその職に就きました。以降、現在に至るまで、天皇の交代にまつわる数々の「儀式」が公費を浪費して実施され、それを官民及びマスコミを挙げて「奉祝する」という異様なムードがあおられています。主権在民、政教分離を大原則とする現行憲法のもとで進行している現在の天皇「代替わり」キャンペーンは、憲法上の多くの重大な問題をはらんでおり、民主主義的な社会の実現をめざす私たちの願いとは相いれないものです。
日本国憲法第一条「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」で明らかなように、主権は天皇にはなく、天皇は単なる象徴にしかすぎません。また日本国憲法第四条「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。」の規定通り、天皇には国政上、何の権限もなく、憲法に定められた国事行為しかしてはいけないのです。憲法上の何の規定もない皇族の様々な行動が所謂「公的行為」として、多額の市民の税金を使って長年繰り広げられ、政治利用の温床ともなってきましたが、もってのほかです。
今回の「代替わりキャンペーン」に関わる法的根拠をみれば、日本国憲法第七条で天皇の国事行為が列挙してあり、その第10項で「儀式をおこなうこと。」とされ、具体的には皇室典範第二十四条で「皇位の継承があったときは即位の礼を行う。」、同第二十五条「天皇が崩じたときは大喪の礼を行う。」という規定があるだけです。唯一法令上の規定のあるこれら二つの「儀式」ですら、日本国憲法の原則の範囲内で実施されなければならないことは自明です。にもかかわらず、実際には、多くの憲法違反が強行されています。
例えば、「即位の礼」の中では、「剣璽等承継の儀」「即位後朝見の儀」なるものが、国事行為として行われました。「剣璽等承継の儀」とは、天皇家が代々受け継いできたという「三種の神器」(「剣」「璽(勾玉)」「鏡」)を、前天皇から新天皇に渡すという儀式です。これは明らかな宗教(皇室神道)儀式であり、それを国事行為として行うことは、明確な憲法第二十条「政教分離」違反にあたります。また、「即位後朝見の儀」も首相が「国民代表」として祝辞を述べ、天皇が「おことば」を下すためのもので、そもそも「朝見」という言葉自体が、「臣民」が天皇を拝謁するという意味で、天皇主権の大日本帝国憲法の思想をそのまま残すものです。しかも首相が天皇より低い位置から高座に立つ天皇を見上げる(天皇が見下す)形で行われ、まったく現行憲法の主権在民の大原則を踏みにじる形式で実施されています。
また11月22日には、新天皇が「即位」を「皇祖神・天照大神」に報告するためとして、伊勢神宮の外宮を訪れましたが、同行した新皇后は参拝時にはその場から遠ざけられていました。皇后は皇位の印である「神器」に近づけないのです。皇室典範第一条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」として、皇位継承から女性を排除しているためです。これは剥き出しの女性差別であり、日本国憲法第十四条「法の下の平等」にも反しています。このように、数々の憲法違反を含む一連の天皇「代替わり」行事に、なんと総額166億円もの血税が支出されると言います。昨年11月14日に行われた大嘗祭では、たった数週間で取り壊すことが決まっている大嘗宮の建設に27億円もの公費をかけるなど、今なお多くの市民が、福島原発事故では故郷を追われ、豪雨災害や台風被害でも塗炭の苦しみを味わっている中で、異様というほかありません。
文科省も、戦前の天皇制軍国主義下で市民を教育勅語で徹底的に洗脳し、数知れぬ子供たちを戦場に送ったその歴史的責任はすでに過去のこととして忘れ去ったかのように、「日の丸・君が代」の強制にさらに上乗せして、またぞろ学校教育の場でこのキャンペーンを展開しています。昨年4月22日付の全国の都道府県教育委員会などに向けた通知で、「学校で児童生徒に天皇の退位と皇太子の即位に国民が祝意を表す意義を理解させるよう」周知徹底を求め、貴教育委員会もそれにしたがって、県内の公立学校を指導したと伝えられています。日本国憲法第一条「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」とされているものの、昨年4月の沖縄タイムズによる世論調査では一割前後の市民が「天皇制は廃止すべき」と答えていることからもわかるように、国内の市民の一定の層は、このような非民主的な天皇制に異議を持っています。教育行政も憲法違反の政治的キャンペーンに迎合することなく、現憲法の諸原則に厳密に則って教育行政を執行すべきです。
以下について要請します。
1 卒業式、入学式については、各学校現場の裁量に委ねて民主的に決定、実施するよう指導すること。また「日の丸・君が代」に関わる職務命令の発令や詳細な実施状況の報告提出等を求めないこと。
2 音楽担当教員に「君が代」のピアノ伴奏や斉唱練習を強制しないこと。
3 やむをえず「君が代」斉唱を式次第に入れる場合、式参加者の思想・良心の自由を保障するため、次のような手立てを講じること。
・練習や式当日の「君が代」斉唱に際して、「歌わない」「立たない」「退席する」などの自由が式参加者にあることを事前に周知徹底すること。保護者には文書でも広報すること。
・「日の丸・君が代」を強制されることが自らの思想・良心に反すると申し出る子どもが、そのことでいじめや仲間外れ、右翼からのハラスメント等の被害にあうなどの人権侵害が生じないよう、その配慮を具体的に提案すること。
・子どもの不起立調査、またそれに基づく教職員への調査・査問等は違法な人権侵害であるので絶対に行わないこと。
4 これまでに不起立等の理由で発令した教職員への処分はすべて撤回すること。また今後もいかなる処分もしないこと。
5 教職員の思想信条の調査にもつながる不起立者への現認、査問、報告等を求めないこと。
6 児童、生徒が「日の丸・君が代」を巡る歴史的事実等を教育内容としてきちんと学習できるように条件整備をすること。
7 子どもの権利条約、多文化共生(インクルーシブ)の観点から、公立学校に通う多様な民族的ルーツを持つ児童・生徒については、特段の配慮をすること。
8 「仰げば尊し」など戦前の修身教育を支えた時代錯誤の唱歌を復活させないこと。
以上