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2025年12月21日日曜日

豪州で横行闊歩する「反ユダヤ主義」という言葉

ボンダイ・ビーチ・テロ事件の真の原因を問わない摩訶不思議な豪州政府批判 

ボンダイ・ビーチ公園テロ事件は「反ユダヤ主義」蔓延のゆえ?

12月14日夕方以来、オーストラリアでは「antisemitism 反ユダヤ主義」 ユダヤ人に対する偏見、憎悪、差別、迫害 という言葉が突然に横行闊歩するようになった。

それは、シドニー郊外のひじょうに人気のあるボンダイ・ビーチの公園で、そのとき行われていたユダヤ教の祭典ハヌカの集まりに参加していた大勢のユダヤ人たちを狙った銃撃射殺事件が起き、15名の市民が死亡し、40名以上が負傷したことに起因する。犯人は、過激派組織「IS=イスラム国」のメンバーと見られる親子二人で、ユダヤ人の無差別殺戮を狙ったテロ行為であることは明白である。この親子は、親(50歳)がパキスタンからの移民、息子(24歳)はオーストラリア生まれの豪州市民である。

ユダヤ人殺戮を狙ったこのような銃殺テロ行為は、2023年10月7日のハマスによるイスラエル民間人殺戮と人質捕獲、それに続くイスエル軍の報復によるガザのパレスチナ住民大量殺戮の開始以来、オーストラリアでは初めてのケースである。したがって、オーストラリアのユダヤ系市民にとってはもちろん、多くの豪州市民にとって強烈なショックであることは言うまでもない。多くのユダヤ系市民は、我々は「反ユダヤ主義」というヘイト犯罪の標的になっているのに、そのような犯罪の防止政策の実施を政府は怠ってきたと怒りをあらわにしている。

事件発生以来、この「反ユダヤ主義」に対する非難がすぐに政治的に利用されるようになり、とりわけ連邦議会で野党である自由党側が、ユダヤ市民の不安をさらに煽るが如く、毎日、繰り返し大声でこの言葉をメディアに向けてあげ続けている。例えば、元首相であるジョン・ハワードをはじめ多くの自由党議員、とりわけ前回の選挙で落選した元財務大臣のユダヤ系のジョシュ・フライデンベルグなどは、ボンダイ・ビーチ殺戮が起きたのは、アンソニー・アルバニーゼ首相が「反ユダヤ主義」の蔓延防止と除去に失敗したからであり、「反ユダヤ主義」をのさばらせた首相の責任とモラルが問われるべきで、こんな情けない人物に首相をつづけさせるべきではないなどと、次々と個人攻撃を加えている。同族のユダヤ系市民の不幸をできるだけ政治的に利用して、次回選挙ではぜひとも当選して政界に返り咲きたいという政治家のこのような醜態を見せつけられると、人間とはなんとも浅ましく哀しい生き物であるかと思わざるをえない。

オーストラリアでは、2023年10月以前には「反ユダヤ主義」によるヘイト犯罪はほとんど起きなかったし、ユダヤ系市民が労働党政権を目の敵にするようなことはなく、むしろ関係は良好といえるものであった。よって、誰の目にも明らかであるが、「反ユダヤ主義」によるヘイト犯罪が急激に起きるようになったのは、イスラエルのネタニヤフ政権がガザの徹底的破壊とパレスチナ住民に対する無差別大量殺戮を開始してからである。豪州首相の「反ユダヤ主義」に対する対処能力がどのようなものであるかという問題と、「反ユダヤ主義」をオーストラリアだけではなく世界各国で引き起こしている根本的原因とは直接関係はない。ところが上に述べたような保守政党のこの事件の政治的利用に同調して、ユダヤ系市民の中には総督に首相を罷免せよという要求を出している人たちも出てきている。

ガザ無差別大量殺戮反対運動は「反ユダヤ主義」を煽る それは本当か?

オーストラリアで俗に言われる「パレスチナ派」 この言葉はしばしば「反ユダヤ主義」のグループという意味を暗示する政治的目的でも使われるが の市民がイスラエル政府を批判するデモを開始したのは、ガザ紛争が勃発した2日後の2023年10月9日の(シドニー時間)夜が最初であった。シドニー市内からオペラハウスまで1000人ほどがデモ行進を行い、豪州政府のイスラエル支持停止を訴えた。これに続き、メルボルン、アデレード、ブリズベン、パースなどの州都でも次々と政府にイスラエル支持停止を訴えるデモが行われるようになった。

10月31日には、ユダヤ系市民の反戦平和グループが、ビクトリア州のジロング市内にある防衛大臣リチャード・マーレスの選挙区事務所におしかけ、イスラエルへの軍事支援停止を訴えて、事務所を一時占拠した。また、その後まもなく、各都市の大学キャンパスでも、イスラエル軍のガザ住民無差別大量殺戮を非難し、豪州政府にイスラエル政府支持の停止を求める学生集会が開かれるようになった。こうしたデモや集会はオーストラリア各地で2年以上、ねばり強く続けられている。

初期の反戦デモや集会 例えば上述のシドニーでの最初のデモ では、「ユダヤ人をガスで殺せ」という「反ユダヤ主義」のスローガンを叫ぶデモ参加者がいたと主張する見物人がいたそうである。これを受けて、ニューサウスウェールズ州の州知事クリス・ミンズ(労働党)は「シドニー・オペラハウスには人種差別的な罵声を浴びせる人々が押し寄せ、憎悪が渦巻いていた」と、あたかも自分が見てきたかのようにデモを批判。しかし警察が記録した動画に写っていたのは「ユダヤ人はどこにいるのだ」という言葉で、「デモにユダヤ人も参加せよ」と間接的に呼びかける内容と思われる発言だけであったとのこと。デモが増えるにつれて、アルバニーゼ首相も、デモ参加者が暴力的になり「反ユダヤ主義」を煽っている懸念があると批判的な見解を繰り返し表明するようになった。

2023年11月12日には、再び、シドニー、メルボルン、ブリスベンを含むオーストラリアの複数の都市で、即時停戦を求める数千人が参加する親パレスチナ派集会が開催された。さらにシドニーとメルボルンでは、ハマスに拘束された人質の解放と反ユダヤ主義への反対を求める、親イスラエル派集会も開催された。11月16日には、停戦を求める4万人の医療専門家の署名入り請願書が連邦議会に提出された。これらのどれにも「反ユダヤ主義」の表明は全く見当たらない。

確かに、2024年9月11日のメルボルン市内のデモは暴力騒動になった。この日は、オーストラリアで最大規模の陸軍兵器博覧会が、豪連邦政府とビクトリア州政府の強力な支援の下、「メルボルン会議・展示センター」という大会場で開催された日であった。この兵器博覧会には31カ国の兵器製造会社が自社の様々な新兵器を展示し、数百万ドル、あるいは数十億ドル規模の取引が行われたのである。オーストラリア政府は2016年から2023年にかけて、イスラエル向け軍事装備および軍民両用装備の輸出許可を322件承認しており、同期間におけるオーストラリアのイスラエル向け「武器・弾薬」輸出総額は1550万豪ドル(約1010万米ドル)にのぼった。

会場周辺には、1800人余りの警察官が配備されていた。この兵器博覧会を妨害しようと多くの学生を含む5千人ちかいデモ参加者が11日の早朝から会場近くにおしかけ、会場への入場者を実力で道路封鎖しようとした。これを阻止しようと、警察官はゴム弾や閃光手榴弾、唐辛子スプレーなどを使った。これに対し無防備のデモ参加者たちは、石や卵、腐ったトマト、警察馬が道路に落とした糞などを投げつけて応酬。ニュース報道によれば、デモ参加者の100人余りが、警察側の「過度な武力」で負傷するという結果になったというのが実際の経緯であった。このデモでも、「反ユダヤ主義」のキャンペーンは全く使われていない。


 

実際の「反ユダヤ主義」のヘイト犯罪については、2024年12月6日早朝、2人の20歳のイラン系豪州国籍の若者が、メルボルン郊外のユダヤ系住民地区にあるシナゴーグ(ユダヤ教会堂)に放火し、会堂は半壊状態になったという事件がある。盗難車で会堂に乗りつけた犯人たちは、事件後間もなく逮捕された。しかし、この2人がイスラエルのガザ住民無差別大量殺戮を非難する集会やデモに参加したという情報は、私の知る限りない。

私自身も、メルボルン市内中心部の州立図書館前でこの2年あまり頻繁に開かれている集会に幾度か参加している。この集会では、毎回、中近東出身あるいはその2世であると思われる若者たちが、次々と壇上に上がり、長期にわたるイスラエルのガザ住民に対するあまりにも残虐な殺戮行為、医薬品や食糧支援物資搬入封鎖による病死や餓死の状況を詳しく報告し、イスラエル政府の非人道的行為に対して何ら非難や停戦要求を出さない豪州政府を厳しく糾弾する。しかし、彼/彼女たちのスピーチで、「ユダヤ人」全般を批判する言葉を私自身は全く聞いたことがない。この問題で「ユダヤ人」を批判することが無意味であるどころか逆に人種差別につながることを、デモや集会参加者は百も承知しているからであろうと思われる。

無差別大量殺戮の被害者よりネタニヤフや米国大統領の顔色を窺う豪州首脳たち

よって、この種のデモや集会が、即「反ユダヤ主義」につながるという労働党首脳たちの懸念は、全く現状を理解していないか、あるいは現状を知りたくないからか、そのどちらか(おそらく後者)であろうと私は思う。彼らの顔はイスラエル政府のほうにいつも向けられており、後述するように2025年8月3日までは、ネタニヤフ政権の顔色を窺ってきたというのが実情なのである。

それはまた、ネタニヤフ政権を強力に支持してやまない米国のジョー・バイデンやドナルド・トランプの顔色を窺ってきたことと密接に絡んでいることは言うまでもない。バイデンは、大統領在任中に「イスラエルは自国を防衛する権利がある」と常に述べて、ネタニヤフ政権のガザ住民ジェノサイドという「人道に対する罪」を問わない姿勢をあくまでも崩さなかった。トランプも同じであることは、言うまでもない。

豪州首相アルバニーゼと外相ペニー・ワンの二人も、いつまでも止まないネタニヤフのガザ住民無差別大量殺戮という強硬態度をどう考えるのか、豪州政権の基本的対応方針についてプレス会議で質問されるたびに、「イスラエルは自国を防衛する権利がある」という応答を繰り返すことだけを続けてきた。そして同時に、イスラエル政府批判のデモや集会は「反ユダヤ主義」を煽るものであると、否定的な態度をとり続けてきた。国内世論を決定的に読み誤り、米国の親イスラエル政策に全面的に追従した豪州政府首脳たちへの酬いは、後述するように、つい先日の12月14日のボンダイ・ビーチでのテロ事件で突然やってきたのである。

情けないのは、アルバニーゼやワンだけではない。ジャーナリストの中に、「それではガザ住民の人権は誰が守るのですか?」という質問をする者がいつまでたっても現れなかったことである。豪州の公共放送ABCのニュース特集番組でも、こうした質問を首相や外相に直接ぶっつけたジャーナリストは、私が知る限り一人もいない。このことに私は怒りを感じると同時に、「他人の痛み」に倫理的想像力を働かせることができないのは政治家だからなのか、それとも私たち人間の性(さが)なのかと、なんとも哀しくなる。

2025年5月19日になってようやく、英国、フランス、カナダの3カ国首脳が、イスラエル政府の食糧・医薬品などの支援物資の長期にわたるガザ搬入封鎖のゆえにガザ住民に餓死者が急増しており、しかも無差別空爆殺戮をいまだに続けていることから、非難の声をあげる共同声明を発表した。あまりにも遅い反応であったが、「我々は常に、イスラエルがテロリズムからイスラエルを守る権利を支持してきた。しかし、この(ガザ攻撃の)エスカレーションはまったく不均衡である」と主張し、イスラエルの活動によって引き起こされた恒久的なパレスチナ人強制移住は「国際人道法に違反する」とまで宣言した。さらに、「イスラエルは、パレスチナ国家の存続可能性およびイスラエル人およびパレスチナ人の安全保障を損なう違法な(ヨルダン川西岸地区への)入植地を停止しなければならない」と主張。そして結論では、この「地域で長期的な安定を確保する唯一の方法はイスラエルとパレスチナの二国家解決の実現」であり、この実現に向けて3カ国は他国と協力する用意があると述べている。ところが、この共同声明にはオーストラリアは参加していない。豪州政府には、署名参加要請すらなかったのであろうか。(ちなみに7月21日に発表された28カ国によるガザ地区での即時停戦を求める共同声明には、オーストラリアも日本も署名しているが、内容は英仏加3カ国共同声明の内容と比べれば軟弱である。)

労働党首脳たちの態度を変更させた8・3シドニー大規模デモ

2025年8月3日、シドニー湾にかかっている大規模な橋、ハーバー・ブリッジ(長さ1キロ以上、幅約50メートル)をデモ参加者で埋め尽くすという、これまでにオーストラリアでは見られなかった一大イベントが行われた。目的は、パレスチナ住民への支援表明、ガザの状況に対する意識向上、イスラエルに政治的制裁を与えるように豪州政府に圧力をかける、この3つであった。少なくとも5万人が参加すると推測された情報から、警察側は「主要道路の遮断になるデモは違法」という主張で、州最高裁にデモ禁止許可を訴えた。ところがベリンダ・リッグ判事は「平和的抗議行動が他人の迷惑になるのはあたりまえのことで、なぜこの抗議行動が必要なのかについての当事者側の理由説明は尊敬に値する」という素晴らしい判断で、警察の訴えを斥けてしまった。

あいにくと当日は雨で寒かったが(オーストラリアの8月は冬)、それでも、ある群衆安全管理専門家の推定によると、22万5千人から30万人という驚くべき数の参加者が、橋の全長を埋め尽くしてしまった。参加者の中には、ウィキリークス創設者でスパイ容疑で長年イギリスの刑務所に収監されていたジュリアン・アサジをはじめ、労働党や緑の党の複数の州議会議員や連邦議会議員、シドニー現市長など多くの政治家たちの顔も見受けられたし、アムネスティー・インタナショナルやオーストラリア・ユダヤ人協会、労働組合や海外難民支援団体などの組織からも強い支持表明があった。同日、メルボルンでも州立図書館前での集会に2万5千人が集まり、市内をデモ行進した

デモ参加者数の多さに驚き慌てふためいたのであろう、デモ当日前までは反対していた州知事クリス・ミンズは「抗議活動の意図は正しいし、デモも警察の指示に従う平和的なものであった」というコメントを出さざるをえなかった。同じように、アルバニーゼ首相とワン外相も、「オーストラリアの人たちがガザで起きていることに心を痛め、同時に怒りを感じていることがよく分かる、平和的なデモ」であったと賞賛し、それまで言い続けていた「反ユダヤ主義」についての懸念には全く言及しなかった。そしてガザへのこれまでの人道的支援に2千万豪ドルを追加すると発表して、デモ参加者や支援団体からの批判をなんとか躱そうとしたのであった。

さらには、9月に開かれる国連総において英国、フランス、カナダをはじめパレスチナ国家を承認する国が圧倒的に多くなるであろうことをすでに知っていたので、この大規模デモの1週間後の8月11日に、アルバニーゼ首相は「オーストラリアは9月に開かれる国連総会第80回会期においてパレスチナ国家を承認し、二国家解決に向けた国際的な機運、ガザでの停戦、人質解放に貢献する」という声明を発表し、ようやくネタニヤフ政権の顔色を窺うことに見切りをつけたのであった。

この8・3大規模デモ前まではアルバニーゼ政権を一応支持してきたユダヤ系諸団体は、「パレスチナ国家承認」という発表に反発して、反アルバニーゼ政権へと決定的に転換。それから4ヶ月後の12月14日のボンダイ・ビーチでのテロ事件が、ユダヤ系諸団体の反アルバニーゼに対する憤懣に火をつけた形となり、「反ユダヤ主義」というヘイト犯罪の防止政策実施を政府は怠ってきたと怒りをあらわにしたというわけである。

ネタニヤフも、ここぞとばかり、アルバニーゼを個人的に以下のような言葉で糾弾した。「(豪州政府の「パレスチナ国家承認」予定の発表の6日後の)8月17日のアルバニーゼ首相宛への手紙で、私は、豪州政府の政策が反ユダヤ主義を煽っているという警告を(次のように)促しておいた。貴殿のパレスチナ国家設立の呼びかけは、反ユダヤ主義の炎に油を注ぐものである。それはハマスのテロリズムに報酬をもたらすものとなる。オーストラリアのユダヤ人を脅かす者たちを大胆にし、今や貴国の街を徘徊するユダヤ人憎悪を助長する。……… 貴国政府はオーストラリアにおける反ユダヤ主義の蔓延を阻止するため、何らの措置も講じなかった。貴殿は何の行動も取らず、この病が蔓延するのを放置した。その結果が、本日我々が目の当たりにした(ボンダイ・ビーチでの)ユダヤ人に対する恐るべき襲撃である。」

オーストラリアのユダヤ系諸団体のアルバニーゼに対する批判は、まさにこのネタニヤフのアルバニーゼ個人攻撃と全面的に一致する内容となっている。ネタニヤフは「反ユダヤ主義の炎に油を注ぐ」自分の重大責任をタナにあげて、他国の首相に全責任を負わせる独善的、というよりは偏執的とも言える個人糾弾に終止した。反ユダヤ主義という病の蔓延があるとするなら、それをもたらしたのは自分に直接の責任がある7万人を超えるパレスチナ人の殺戮であるが、それには想いもいかないという人間 そんな哀しい人間を産みだしてしまった歴史的、文化的背景とは何だったのだろうか。

結論:政治モラルが問われているのは首相だけなのか?

冒頭で述べたように、野党の保守政治家や一部のユダヤ系オーストラリア人の中には、ネタニヤフ同様に、「反ユダヤ主義」をのさばらせた首相の責任とモラルが問われるべきであるとアルバニーゼを激しく糾弾する者たちがいる。真に問われるべき首相のモラルは、「反ユダヤ主義」をのさばらせたことではなく すでに述べたようにそんな責任は首相にはない 、イスラエル政府、とくにネタニヤフ首相のガザ住民に対する無差別大量殺戮(ジェノサイド)という重大な犯罪に目を瞑り、「イスラエルには自国を防衛する権利がある」という言葉でネタニヤフの犯罪行為の隠蔽に事実上加担したこと、その政治モラルの欠如である。しかしながら同じモラルの欠如は、首相を糾弾する野党の保守政治家や一部のユダヤ系オーストラリア人にも厳然としてあることに、彼ら自身がなぜゆえに気がつかないのであろうか。本当に気がついていないとすれば、これまた哀しいことである。

殺害 すなわち人の命を奪うこと この罪を犯す人間はユダヤ人であれパレスチナ人であれ、どんな人種の人間であれ、また被害者がどんな人種の人間であれ、犯罪者であることは言うまでもない。ところが、この言うまでもないことを、堂々としかも大量に「自己防衛」という立前で現在行っているのがイスラエルのネタニヤフ政権なのである。2023年10月7日のハマスによるイスラエル民間人殺戮と人質捕獲も、明らかに犯罪であることは述べるまでもない。イスラエルはこれをテロと見做し、テロ壊滅作戦と称して幼児や子どもを含む多くのパレスチナ一般住民を大規模軍隊で無差別殺戮する自分たちの国家テロは、正当な「自己防衛」と主張する。ちなみに、ナチスも侵略戦争を「自己防衛」という立前で行ったことを我々は思い出すべきである。周知のように、国際司法裁判所も国際刑事裁判所も、イスラエルのガザ攻撃は国際法違反であると明確に判断している。

一国の首相という政治家であるなら、一人の人間としてこの最も根本的なモラルに元づいて、ネタニヤフ政権に対し、最初から「ガザ住民の無差別大量殺戮は即刻停止すべきであり、パレスチナを国家として承認すべきである」という強い要求を出すべきだったのである。これは政治的判断や世論の動向の問題では決してない 人の命に関わる人間として最も根本的な問題であり、政治的判断も、あくまでもこの「人間としてのモラル」の問題にしっかりと根拠をおいていなければならないはずである。

ユダヤ系豪州市民の中には、このような要請に対しては猛烈に反対する熱烈なユダヤ民族主義者であるシオニストたちがいることは、私も十分承知している。しかし、そのような人たちに対してこそ、一人の人間として、いかなる民族に属する他者の生命をもあくまでも尊重することの重要性を説き、罪のない子どもたちを含む多くの多民族の一般市民を無差別大量殺戮しているイスラエル政府を支持することが、結局は自分たちの安全と生命を脅かす「反ユダヤ主義」につながっていく この極めて明解な道理を、忍耐強く、繰り返し伝えていくべきであろう。(ちなみにネタニヤフ政権糾弾のデモや集会には、数は少ないが、しばしばユダヤ系の市民活動家たちをみうける。決してユダヤ系市民の全てがユダヤ民族主義者ではないことを明記しておきたい。)

しかし、その道理を受け入れてもらうには、その道理を単なる知識としてだけではなく、心に刻み込む情念として受けとってもらう必要がある。そのためには、イスラエル民族が辛酸を嘗めたホロコーストという凄まじい体験記憶の自分たちの「痛み」を、倫理的想像力として、パレスチナ民族や他のイスラム系民族に対するイスラエルの殺傷行為の被害者の「痛み」を知るために活用し、他者の「痛み」をも自分の「痛み」と同様に自分の心の中に深く内面化するというプロセスが必要であろう。ユダヤ系民族とイスラム系民族の相互の「痛みの分かち合い」から信頼できる人間関係を徐々に築き上げていくこと、そこから始めていくことで未来が見えてくるのではないだろうか。これはもはや単なる政治の問題ではなく、そのような情念を涵養することができる新しい文化の創造の問題であり、言うまでもなく決して容易なことではない。とりわけシオニストたちの思考観念を変革することは並大抵ではなく、ユダヤ系だけではなく、オーストラリアの様々な民族背景をもった大勢の市民の忍耐強い協力が必要となってくるであろう。

しかし、12〜15万人のユダヤ系住民と80〜90万人のイスラム系住民が住むオーストラリアでの、ユダヤ系民族とイスラム系民族の平和的共存のための新しい文化の創造は、決して不可能ではないと私は考える。幸にして、オーストラリアには先住民と第2次世界大戦後、さらにはベトナム戦争後に移民してきた様々な民族が共存できるような「多文化主義政策」が1970年代から推進されてきた。最近、この「多文化主義」にもいろいろ問題は出てきているが、基本的には「平和的共存多文化主義」がすでに伝統としてこの国には根づき維持されている。したがって、ユダヤ系民族とイスラム系民族の平和的共存のための基礎は用意されているのであり、今後、具体的にどのように両民族の「平和的共存文化」を構築していくか、その様々な方法が議論され具体的に実践していける可能性は十分にあるはずだ。その方法の一つとして、「痛みの分かち合い」が是非とも検討されることを祈ってやまない。

この「痛みの分かち合い」という方法は、もっぱら原爆を含む無差別爆撃大量殺戮という戦争被害の自分たちの「痛み」だけを常に主張しながら、その一方で日本軍がアジア諸国で犯した様々な残虐な戦争犯罪の被害者の「痛み」には目を向けようとしない多くの日本人と日本政府にとっても、決して他国の問題ではないはずである。その点で、日本人には、オーストラリアの現状からも学ぶべきことが多々あるはずだと私は考える。

 

 

2023年11月20日月曜日

“Failure to Prevent Genocide”: Biden Sued as U.S. Provides Arms & Support for Israel’s Gaza Assault

「ジェノサイド防止の失敗」: バイデン大統領がイスラエルのガザ攻撃に武器と支援を提供したことで訴えられる

 

11月16日の『Democracy Now (今こそ 民主主義を)!』放送の日本語訳です。

https://www.democracynow.org/2023/11/16/ccr_genocide

 

イスラエルがガザでの停戦を求める国際的な要請を拒否するなか、米国の「憲法権利センター」は、ジェノサイドを防止できなかったとしてバイデン大統領を提訴している。同センターは、バイデン大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官に対し、イスラエルへのさらなる軍事資金提供、武器供与、外交支援を阻止する緊急命令の発令を求めている。憲法権利センターの上級弁護士、キャサリン・ギャラガー氏は、イスラエル政府がパレスチナ住民全員を「(無差別に)集団的に処罰する」という明確な意思表示にもかかわらず、米国は軍事援助、助言、政治的支援によって「大量虐殺を幇助」し、イスラエルと「犯罪中の犯罪」に加担していると主張している。

 

エイミー・グッドマン(『今こそ 民主主義を!』の司会者):

イスラエルによるガザへの砲撃がこれまで41日間も続くなか、イスラエルは国連安全保障理事会によるガザへの緊急人道支援要請を拒否しています。国連安全保障理事会は、米国、英国、ロシアが棄権したため、120で決議を可決しました。イスラエルが107日のハマスによるイスラエル攻撃後に砲撃を開始して以来、国連安全保障理事会で決議が可決されたのはこれが初めてです。

これは、イスラエルが、ガザ最大の病院であるアル・シファーへの軍事攻撃を続けている中でのことです。イスラエルは以前から、ハマスが病院の地下に主要な司令部を置いたと主張してきましたが、イスラエルは今のところその証拠を提供していません。イスラエルは、病院内で発見されたという武器の画像は流しましたが、ハマス側はこの写真をプロパガンダだと退けています。水曜日(11月15日)、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエス事務局長は、アル・シファへの襲撃を次のように非難しました。

「イスラエルによるガザ市のアル・シファー病院への軍事侵攻は、まったく容認できない。病院は戦場ではありません。私たちは、病院のスタッフと患者の安全を非常に心配しています。彼らを守ることが最優先です。 WHOは、アル・シファー病院の医療従事者と連絡をもはや取ることができません。国際人道法の下では、医療施設、医療従事者、救急車、患者は、あらゆる戦争行為から守られ、保護されなければならないとされています。それだけでなく、軍事計画作成中も、積極的に保護されなければなりません。」

エイミー・グッドマン:

ガザでの停戦を求める国際的な声の高まりをイスラエルが拒否するなか、イスラエルとその支持者たちがガザで犯した戦争犯罪の責任を追及する動きが強まっています。ここ米国では、憲法権利センターがバイデン大統領を提訴し、大量虐殺を防げなかったとして非難しています。本日、憲法権利センターは、バイデン大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官に対し、イスラエルへのさらなる軍事資金、武器、外交支援の提供を阻止する緊急命令を出すことを求めています。

この訴訟を起こした弁護士の一人、憲法権利センターのキャサリン・ギャラガー上級弁護士にお話を伺います。

キャサリンさん、私たちのために、これまでの経緯を整理していただけますか?アメリカ政府、バイデン大統領に何を要求しているのですか?

 

キャサリン・ギャラガー:

おはようございます、エイミーさん。月曜日に提訴したのは、2つのパレスチナの人権団体、すなわち、「子どもを守るための国際的=パレスチナ」組織と、アル・ハクと呼ばれるパレスチナで最も古い人権擁護団体です。アル・ハクは、その長年にわたる活動歴史の中で、今回初めて、あまりにも酷い状況のためにガザでの活動ができなくなっています。この2つの団体に加えて、ガザにいる3人のパレスチナ人、そして今まさにガザで家族が殺害され、負傷し、直接的な脅威にさらされている5人のパレスチナ系アメリカ人の家族が代表して提訴しました。

私たちは、バイデン大統領、ブリンケン国務長官、オースティン国務長官に対し、2つの主張をもってこの訴訟を起こしました。ひとつは、ガザのパレスチナ人に対するジェノサイド(大量虐殺)を阻止するために可能なあらゆる手段を講じなければならないという、国際法および米国法のもとでの義務を、彼らは完全に怠ったということです。米国はジェノサイド条約に加盟しています。その重大性を認識し、これは犯罪中の犯罪であり、ある集団、ある国家や民族を全体的または部分的に破壊する具体的な意図がるということからすれば、国家はジェノサイドの可能性を知った瞬間から、そのような重大な犯罪を阻止するために、(この条約の締約国は)自国の管轄の範囲内で、あらゆる可能な手段を講じる義務があります。米国は、一方で、何十年にもわたって何千億ドル、昨年は何十億ドルもの軍事援助をイスラエルに提供してきたにもかかわらず、(イスラエルに)ジェノサイドをやめさせようとするのを私たちは見たことがありません。米国は、殺戮をやめさせ、ガザという閉鎖空間に住む220万人を完全に包囲し、基本的な生活必需品を何ら与えないということをイスラエルにやめさせるために自国の影響力を使う代わり、武器を提供したのです。無条件の政治的支援も行っています。昨日まで、安全保障理事会の決議が完全な停戦を要求していなかったのを見ると、それは、米国が国際レベルで、停戦決議が取られるあらゆる措置を阻止してきたのだということが分かります。そこで私たちは、米国政府がこの大量虐殺を防げなかったとして、最初の提訴に踏み切ったのです。

さらに、2つ目の主張は、米国政府が実際にイスラエルの大量虐殺に加担しているというものです。私たちは、イスラエルが今この瞬間にも実際に大量虐殺を行なっていることを論証することができます。そして、残念ながら ― こんなことを言わなければならないのは決して喜ばしいことではないのですが ― この戦争の早い時期から、ネタニヤフ首相や国防相をはじめとするイスラエル高官たちが、ガザの全住民に対する(ジェノサイドの)意図について非常に明確な声明を発表していたため、私たちは今回のこの提訴を行うことができるのです。彼らは、ガザの人々や子どもたちを人間以下とみなし、住民を「怪物」あるいは「動物的人間」と表現し、基本的な生活必需品である食糧、燃料、水、電気などすべてを奪い去りました。このような事態を前にしてもまだ、米国は武器を送り、軍事顧問を送り、援助を急ぎ、イスラエルの行動を道義的も政治的にも支援し続けているのです。

 

ナーミン・シエーク(『今こそ 民主主義を!』の共同司会者)

キャサリンさん、今起きていることがジェノサイドなのか民族浄化なのかについては、ジェノサイドの研究者の間でも意見の相違や論争があるようですが、この2つの区別と、この件についてあなたに助言を与えている人たちが、(これから起きることではなく)今起きていること、今現在起きていることがジェノサイドだと確信しているのはどうしてなのか、それを説明していただけますか?

 

キャサリン・ギャラガー

 キャサリン・ギャラガー:

最初にはっきりさせておきたいのは、民族浄化(それ自体)は実は犯罪ではないといえます。しかし、民族浄化という用語は、絶滅や強制移住、強制送還といった「人道に反する罪」に対してしばしば使われる表現です。したがって、それらは重大な犯罪です。国際刑事裁判所ICCはこれらの犯罪を法的に管轄します。率直に言って、国際刑事裁判所は今この瞬間にも、これらの犯罪を犯している人物たちの逮捕状を取るべきです。それが第一のポイントです。

キャサリン・ギャラガーの説明は不十分であるので、もう少し説明を付け加えておきます。民族浄化の主たる目的は単一民族からなる地域の確立であり,それを実現する方法は、大量殺戮などのような犯罪行為でなくとも、他に数多くの合法的な方法があると主張する民族浄化擁護派たちもいます。そのため、民族浄化は「法的用語としては、厳密には犯罪行為をさすものではないが、現実には犯罪行為として行われている」とギャラガーは言いたかったようです。以上、田中による追記)。

ジェノサイドの(成立)要素とは、ある集団を全体的または部分的に破壊する具体的な意図で行われるものであり、ジェノサイド(成立)の基礎となるいくつかの行為があります。そして、(ジェノサイド条約第2条で定義されている)ジェノサイドの基礎となる5つの行為のうち3つが、今回の事件には当てはまると考えられます ― すなわち、殺害、身体的または精神的に重大な害を与えること、そして集団の全部または一部を破壊する生活条件を作っていることです。

そして、それをもう少し紐解くと、通常、具体的に(ジェノサイドを犯す)意図があったのか、なかったかと言うには判断が必要であり、普通は事後的にしか結論づけられないものなのです。私はユーゴスラビアの戦争犯罪法廷に勤務し、スレブレニツァ事件を担当しました。このユーゴラスラビアの場合でさえも、ジェノサイドと判断するのはなかなか難しいものでした。ところが、今回のイスラエルの場合は、(ジェノサイドの意図をはっきりとさせるような)声明が前面に出てきています。イスラエル政府高官の発言は、その意図を裏付けるものであり、完全な包囲網を敷き、住民全体から基本的な生活必需品、つまり、すでに述べましたように、病院を運営するために必要な食糧、燃料、電気へのアクセスを拒否し、人々が食事を作り、水を確保するために必要な生活必需品を得ることが全くできないようにしています。私たちは、いま飢餓の始まりを目の当たりにしているのです。

そしてもちろん、これらはすべて、封鎖され国境が閉ざされた空間での、激しく継続的な軍事砲撃の下で起こっているのです。その封鎖は実は16年間も続いているのです。そして繰り返しになりますが、少なくともこの16年間という長い封鎖の間、ガザのパレスチナ人に対して「人道に対する罪」が犯され続けられてきたのです。

私たちが今見ているのは、その住民を破壊するという具体的な意思の表明です。すでに11,000人以上が命を落とし、その中には4,600人以上の子どもも含まれています。ですから、ジェノサイドのためには、そのような脅しと行動を実行する能力を持つイスラエルの高官によって表明された、具体的な意図を考慮する必要があります。

そして、この犯罪の重大性ゆえに、ジェノサイドの深刻な危険性を国が認識した時点で、予防義務が発動されることを再度強調しておきたいと思います。米国は、ネタニヤフ首相がガザ地区全体を瓦礫と化し、地球上から消滅させるという脅迫を行った107日でなくとも、少なくとも109日に国防相が全面包囲を発表し、それが発動されたときから、そのことを察知していたはずです。だからこそ私たちは、米国に共謀責任がその時点ではなかったとしても、防止する義務は存在していたと感じているのです。

そして私たちに必要なのは -- 今この瞬間に法的な定義について屁理屈をこねる必要はないということです。必要なのは行動です。米国大統領、国務長官、国防長官には、世界の大多数が何週間も求めてきたことを実行してもらいたい。ガザ包囲網を止めるさせることです。220万人の人々が尊厳をもって生き、彼らの権利が尊重され、私たち全員が目撃しているこのような恐怖にさらされないようにし、地球上で最も強力な米国が思いやりを持ち、法律を遵守するような国になるように、私たちはできることは何でもしようとしているのです。

 

エイミー・グッドマン:

キャサリン・ギャラガーさん、ご出演ありがとうございます。憲法権利センターの上級スタッフ弁護士で、バイデン大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官に対し、イスラエルへのさらなる軍事資金提供、武器供与、外交支援を阻止する緊急命令を求めています。

 

 

訳者後書き

『今こそ 民主主義を!』の番組では、イスラエルのパレスチナ人ジェノサイドを何としても止めようと努力している、様々な米国の個人や団体代表を毎日のようにインタヴューしています。その中にはホロコーストの生存者やユダヤ系アメリカ人でジェノサイド研究の権威者などもいます。またパレスチナからアメリカに移住できた作家や学者もいます。私の時間的な都合で、ごく一部しか紹介できないのが残念ですが、出来るだけ紹介していきたいと思います。しかも驚くのは、インタヴューを受ける人々の大半が女性です。

『今こそ 民主主義を!』の番組を観ていますと、米国には優秀でひじょうに良心的な知識人が大勢いるにも関わらず、一方では、ドナルド・トランプのような、何の政治理念も政治思考能力も持たず、支配欲と差別意識だけで動いているような低劣な人間を大統領にまで祭り上げる、白人優位主義・愛国主義者も大勢いるアメリカ、この混沌としたアメリカ社会を、真に民主主義的な社会に変革していくのは、日本と同じようにたいへん困難なことだと痛感させられます。

 

ところで、中東問題研究者でもない私がパレスチナ問題に深い関心を持っている理由は、私の研究分野が戦争犯罪だからというだけではありません。実は、私の家族と密接に関連している問題があります。(2016年に百歳で亡くなった、ベルリン生まれのユダヤ人である)私の義母(私の連れ合いの母)には3人の姉がいましたが、1933年にナチスが政権をとった後間もなく、一番歳上の姉はアメリカに亡命、二番目の姉はパレスチナに移住(1948年にイスラエル建国)、三番目の姉は逃げ遅れてホロコーストの犠牲者となったという、家族上の問題があるからです。

二番目の姉の息子ウーリー・ダン(つまり義母の甥、私の連れ合いの従兄)の家族がいまもテルアビブに住んでいます。ウーリーはテルアビブ大学の中近東歴史学部の教授で、専攻はイラクとヨルダンの歴史でしたが、1991年に交通事故で亡くなってしまいました。彼が生きていたら現在のイスラエルの状況をどのように考えたであろうかとしばしば想い、直接意見を聴くことができないのは残念でなりません。

いずれにせよ、私の親戚の家族のイスラエルでの比較的恵まれた生活の背景には、パレスチナの人たちの不幸で哀しい歴史があることに、私としても何かしら精神的な重荷を感ぜざるを得ないのです。よって、この56週間は、何もできない自分に悶々として、自分のやるべき仕事に集中できない日が続いています。

大ジェノサイドの犠牲となった民族が構築した国家が、今度は他民族に無慈悲極まりないジェノサイドを行う ― この皮肉で悲壮な歴史はなぜ起きるのか。この問題が頭から離れない毎日です。

 


2023年11月17日金曜日

Palestinian Groups Ask ICC to Arrest Israeli PM Benjamin Netanyahu for War Crimes & Genocide in Gaza

パレスチナ人団体、ICCにイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフをガザでの戦争犯罪とジェノサイドで逮捕するよう要請

 

1110日放送『デモクラシー・ナウ(今こそ民主主義を)!』の日本語訳です。

 

https://www.democracynow.org/2023/11/10/icc_lawsuit

 

イスラエルによる1ヶ月に及ぶ空爆と地上攻撃で1万人以上のパレスチナ人が死亡したガザでの戦争について、ICC(国際刑事裁判所)でイスラエルの責任を問う新たな取り組みについて、パレスチナの人権弁護士ノーラ・エラカットに話を聞いた。水曜日、パレスチナの3つの人権団体は、イスラエルをジェノサイドとアパルトヘイトの罪で調査するよう求め、国際機関に提訴した。また、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、アイザック・ヘルツォグ大統領、ヨアヴ・ギャラント国防相の逮捕状を発行するようにも求めている。イスラエルの侵略に対する国際的な不作為は、「何十年もの間、イスラエルの責任を追及する組織的な失敗」の一部であり、またグローバル・サウスの人々に対する戦争犯罪に適用される「完全な二重基準」でもあると、ICC訴訟を支援するために集まった学者や活動家のチームの一員であるエラカットは言う。「これは国際的な法制度の危機というだけでなく、私たちが暮らす米国の民主的な、あるいはいわゆる民主的制度の危機なのです」。

 

こちらは『デモクラシー・ナウ(今こそ民主主義を)!』の「戦争と平和レポート」です。

 

エイミー・グッドマン:

パレスチナの3つの人権団体が国際刑事裁判所に提訴し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と他の指導者に対し、ジェノサイド(大量虐殺)、ジェノサイドの扇動、アパルトヘイトの罪で逮捕状を発行するよう求めた。アル・ハク(Al-Haq)、アル・メザン(Al Mezan)、パレスチナ人権センター(Palestinian Centre for Human Rights)の3団体は、イスラエル軍の息が詰まるようなガザ包囲と、人口密度の高い民間人地域への無差別攻撃は、「(通常の)戦争犯罪」、「人道に対する罪」、「ジェノサイド」に相当すると裁判所に訴えた。この訴訟はまた、イスラエルのアイザック・ヘルツォグ大統領とヨアヴ・ギャラント国防相の逮捕を求めている。パレスチナ保健当局によれば、ガザでの死者数は11,000人に迫っている。

 

パレスチナ人権弁護士ノーラ・エラカット(ラトガース大学准教授、『Justice for Some』)の著者)ノーラ・エラカットにお話を伺います。彼女は『Justice for Some』の著者であり、ICC提訴を支援した学者、知識人、活動家からなるパレスチナ人チームの一員である。彼女は、フィラデルフィアからこの番組に参加しています。

 

ノーラさん、『デモクラシー・ナウ(今こそ民主主義を)!』!へようこそ。この訴訟について説明していただけますか?

 

ノーラ・エラカット:

その通りです。この訴訟は、アル・ハク、アル・メザン、パレスチナ人権センターという、あなたがおっしゃった3つの団体を代表する集団的な取り組みです。これは、国際刑事裁判所に提出された無数の取り組みのひとつです。例えば、ごく最近、国境なき記者団も、34人のジャーナリストが殺害された事件(そのうちの数人は、この猛攻撃の最中に活動していたジャーナリストたち)を調査するようICCに求める請願書を提出しました。

 

ノーラ・エラカット 

臨時に立ち上げたグループとして強調したいのは、これは単に請願書で明記したイスラエルの個人に対する訴訟ではなく、国際刑事裁判所、国際刑事法、国際的な法的機関全体が、グローバル・サウスに関しては完全なダブルスタンダードを示しているという点です。国際刑事裁判所(ICC)は設立以来、アフリカ大陸で20件以上の裁判を開いてきました。スロボダン・ミロシェビッチのケースを除いて、これまで起訴されたのはすべてアラブやアフリカの個人、国家元首、政府高官です。

 

現在進行中のジェノサイド(大量虐殺)であるイスラエルの責任を問うために、私たちはICCに働きかけているのです。イスラエルは、パレスチナの人々を「全体的または部分的に」滅ぼすという具体的な意図があり、その行為の根底には具体的にその目的を実現するための意図が表れていることを、私たちはっきりとICCの指導者たちに伝えています。

(ジェノサイドの定義について、ジェノサイド条約第2条は、「ジェノサイドとは、国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を、それ自体として破壊する意図をもって行われる以下のいずれかの行為を指す」として、5項目を挙げている。田中による追記)

 

エイミー・グッドマン:

私たちは、先日、世界的に有名な人権弁護士であるガザ市在住のラジー・スーラニに話を聞きました。彼の家が爆撃された後、ガザ北部に残ったラジー氏からの悲痛な訴えでした。彼は特に、ICCの主席検察官であるカリム・カーンに連絡をとりました。そして、「ロシアがウクライナの子どもたちを攻撃したとき、ICCは直ちに戦争犯罪調査を開始すると言って貴方を召喚したが、イスラエルとパレスチナでの(同じような戦争犯罪)問題について貴方はどんな立場をとっているのか」、と問題提起をしたわけです。ICCは、すでに2021年にヨルダン川西岸、ガザ、東エルサレムでイスラエルが犯した可能性のある戦争犯罪について公式に調査しています。

 

ノーラ・エラカット:

ラジーの行動はまったく正しいです。ICCのカリム・カーン検事は、ロシアがウクライナに侵攻してから1週間以内に調査を開始し、ウクライナの子どもたちをロシアに強制移送したウラジーミル・プーチンに逮捕状を発行しました。今回の事件では、カリム・カーン検事がラファに赴き、大量殺戮の意図、大量殺戮、パレスチナ人の生存能力を低下させるような生活条件の破壊が戦争勃発から1週間以内で明らかになった事例を調査するのに、3週間もかかりました。

 

このような状況において私たちが目にするのは、単なる歴史の繰り返しではなく、植民地時代の遺産の継続です。例えば 1935年、ムッソリーニ率いるファシズムのイタリアがエチオピアに侵攻しました。その時、エチオピアは国際連盟加盟国でしたが、国際連盟はエチオピア国民に無差別化学兵器を投下したイタリアの責任を追及するどころか、赤十字がエチオピア人は戦争法に従わない野蛮な国だと非難しました。新聞報道は、エチオピア人が人間の盾として病院に隠れ、避難しているのだとの見出しを掲げました。そして、世界の列強はこのとき、イタリアに十分な制裁を加えることができませんでした。このことは、国際機関の限界を示し、結局、国際連盟の失敗につながったわけです。

 

現在、私たちは同じような瞬間にいるのです。国際機関は行動を起こす必要があるのです。ところが実際には、私たちは膠着状態に陥っています。米国や英国、フランスを率いるような国際的指導者たちは、基本的にイスラエルに大量虐殺や残虐行為を行う許可を与えているのです。

 

この戦争は理由もなく突然起こったわけではありません。すべては107日のずっと以前に始まっていました。そして今は、イスラエルがこれまでずっと責任を問われてこなかった連続としての現在の瞬間なのです。何十年もの間、イスラエルは組織的に責任を追及されてこなかったのです。国際機関は、イスラエルがアパルトヘイトという「人道に対する罪」を実践していると述べてきました。この点では、2020年から2021年にかけては、ほぼ合意が得られていたのです。にもかかわらず、その時に制裁を科すことはせずに、アパルトヘイトを解体するために国際的なメカニズムや制度を動員するのでもなく、米国がイスラエルのアパルトヘイトを称賛し、正常化するのを私たちは目の当たりにし、他のアラブ政権との関係を正常化し続けるのを目の当たりにしてきました。この根本的な失敗が、説明責任の欠如や、北半球と南半球に対するそれぞれ違った2種類の法規の欺瞞的な押し付けという、現在進行中の危機を招いたのです。これは西側諸国政府の偽善であり、西欧普遍主義などというものは存在せず、(北半球と南半球の)2組の違った人々の上に、2組の別々の法規が存在し続けていることを示しているのです。

 

しかし、素晴らしいことに、私たちに希望を与えてくれる唯一のことは、西洋民主主義の偽善性を実証するために、(世界の様々な)個人、民族、地域社会の大衆運動が自国政府に対しても立ち上がったことです。アメリカでさえ、66%のアメリカ人が停戦を要求しています。民主党登録議員の80%が停戦を要求しています。それなのに、535人の国会議員のうち19人しか停戦を支持していないのです。同じ議会が、唯一のパレスチナ系アメリカ人の政府代表を、多数派を代表して発言するまさにその瞬間に、問責したのです。つまり、これは国際的な法的制度の危機というだけでなく、私たちが暮らす米国の民主的な、あるいはいわゆる民主的な制度の危機でもあるのです。

 

エイミー・グッドマン:

そして、何万人ものパレスチナ人が今まさに南へ強制移住させられていますが(この放送はあと20秒しかありませんが)、この事実は「戦争犯罪」や「人道に対する罪」という、貴方が訴えている容疑にはどのように当てはまるのでしょうか?

 


 

ノーラ・エラカット:

私たちがいま目にしているのは、殺されまいと白いハンカチを手に手を上げ、立ち上がっているパレスチナ人の現在進行形のナクバです。これはガザ北部の民族浄化なのです。パレスチナ人なしにパレスチナの土地を奪うというナクバの継続なのです。これは「人道に対する罪」であり、「大量虐殺」戦争という大きな枠組みに当てはまります。

(「ナクバ」とはアラビア語で「大破局」を意味する。1948年に、イスラエルの建国宣言によって第1次中東戦争が勃発。その結果、70万人以上のパレスチナ人が故郷を失って難民化し、周辺諸国に逃れた。避難先で3世、4世が産まれ、人口は現在560万人にまで増加。そして、いまだに故郷に帰れない状況が続いている。田中による追記)

 

エイミー・グッドマン:

パレスチナ人権弁護士のノーラ・エラカットさん、ラトガース大学准教授、どうもありがとうございました。デモクラシー・ナウです!エイミー・グッドマンです。ご参加ありがとうございました。

 

訳者後書き

時間がないので詳しく論じている余裕がないが、現実にはイスラエルのネタニヤフ首相やヘルツォグ大統領、ギャラント国防相などを、ジェノサイド、ジェノサイドの扇動、アパルトヘイトの罪でICC に提訴するのは難しい。第1の問題は、イスラエルがICCの締約国ではないので、ICCがイスラエルの政治家に対して管轄権を行使できない。しかし理論的には、パレスチナとしては、国連憲章第 7 章に基づいて行動する安保理に、ICCに捜査を付託するように求めるという手段がある。

しかしこの場合、第2の問題として、安保理常任理事国5カ国のうち、イスラエルを全面支援する米国の他に、中国、ロシアがICCの加盟国になることを拒否し続けていること。しかも、(拒否権を有する)安保理常任理事国である米英仏の3カ国の上に、日本、カナダ、ドイツ、イタリアを加えたG7諸国は、全てパレスチナを国家として承認することを拒んでいる。国連加盟国193カ国のうち138カ国が国家承認をしているにもかかわらずである。パレスチナは「国連総会オブザーバー」という、議決権のない極めて弱い、差別的な立場に置かれている。よって、国連を通してICCを動かすという手段にも、ほとんど期待はできない。

ICC締約国であるパレスチナの訴えがICCで認められ、実際に逮捕はできなくとも、最終的にネタニヤフの逮捕状をICCが出すことになれば、それ自体は政治的には大きな意味を持つであろう。しかし、その影響力は一時的なものとなることは、これまでの前例からも明らかであろう。

一方、ハマス側もまたイスラエル市民を無差別に1400人(そのほとんどが民間人)ほど殺害し、240人余り(これまたほとんどが民間人)を人質にとり、その人質の中にはイスラエル軍の空爆ですでに死亡している者が数名いる。被害者の数はパレスチナ人の被害状況と比べれば格段に違うが、いかなる歴史的な理由がパレスチナ側にあるにせよ、これまた明らかに戦争犯罪であることを指摘しておく必要がある。戦争において被害になるのはいつも圧倒的に一般市民であり、とりわけ子どもと女性、老人という弱者であることも、あらためて指摘するまでもないであろう。

長期的に考えるならば、パレスチナを国連で正式な国家として承認させ、イスラエルとパレスチナが、双方とも独立した対等な国民国家として相互に対峙できるようにすることが重要である。まずはそこから、パレスチナ国家が、イスラエル国家の犯す国家テロ行為を、ICCや国連を含む様々な国際機関の場で厳しく糾弾する可能性を開けるように、世界中の市民が支援していくことが重要であると私は考える。

現在の武力紛争が一刻も早く停戦になるよう、私たちは市民運動を展開していく必要があるが、それと同時に、長期的展望に立ったパレスチナ支援の運動のあり方を模索するグローバルな市民運動を、海外の市民運動組織と連帯しながら、地道に続けていく必要がある。