あまりに政治的な「和解」を危惧する
ご紹介するのが少々遅れましたが、「広島文学資料保全の会」の池田正彦さんが、2月に読売新聞で報じられた「禎子の折り鶴」ユネスコ申請に関する記事から、「禎子の折り鶴」ユネスコ申請が、核兵器廃絶運動とはつながらない、日米両政府による極めて浅薄な「日米和解」の政治利用となる危険性を指摘する批評を書かれています。これまたG7広島サミットと絡めた、実体が伴っていない空虚な「国際文化平和都市」広島の政治利用の一例であるように私には思えます。
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読売新聞(2月17日)は一面に「禎子の鶴を 世界の記憶に」・「被爆80年の登録を目指す」との記事を報じた。
その中で、登録を目指すのは「SADAKO LEGACY」と、原爆投下を命じたトルーマン米大統領(当時)の記録を保持・公開する米国の「トルーマン図書館」(禎子の折り鶴を寄贈されていると言われている)などが、折り鶴のほか、禎子さん自らの血液検査の結果を記したメモやカルテなどの資料を申請するとのことを伝えている。
審査は、2年に1回。2カ国以上の申請の場合はこの限りではない。(「朝鮮通信使」がこれにあたる)
禎子さんの親族は、トルーマン大統領の孫クリントン・トルーマン・ダニエル氏らの親交を深め、トルーマン氏の協力を得て、日・米で共同申請することになったようだ。
さらに、親族は、「禎子の平和への思いを後世に伝え、唯一の戦争被爆国としての実相を伝え、次世代の子どもたちが〈人の思いやる心〉を育むことに役立ててほしい」語っている。
とまれ、広島市は現在G7サミット開催騒動で浮かれている。2016年5月、現職の米大統領として初の広島訪問で、オバマと被爆者が抱き合ったあの出来過ぎた演出に違和感を覚えた方も多いだろう。今回の「禎子の折り鶴」申請が、「日・米和解」の政治的な舞台にならぬよう心から祈るばかりだ。(オバマが折ったと言われているあの折り鶴もこの際ユネスコに申請したらいいだろう)(親族は、広島県や広島市に協力依頼をする、とのこと)
広島市は、中央図書館のエール・エールA館移転(広島駅前商業地域)問題、さらに「はだしのゲン」の平和教材からの削除問題で大きな批判に晒され頭が痛く、広島県は、教育長の官製談合、11万冊の蔵書廃棄などで揺れている。
軍事では、いち早く「和解」し、憲法9条を持ちながら、「戦争ができる国づくり」に励んできた日本。G7サミットへの手土産なのだろうか、中国新聞(23年2月22日)は、広島湾での自衛隊と米海軍の日米初訓練を伝える。
そういえば、オリンピックは平和の祭典だとして強引にすすめた広島招致運動をおこなったことや、2009年4月のオバマのプラハ演説を過大評価し、オバマジョリティ音頭を踊った秋葉前広島市長が、イスラム教団体の平和賞(アハマディア・ムスリム平和賞)を受賞した、と新聞は伝え、記者会見で「被爆者・市民の立場で発言してきた」と語ったというが、虚しく響く。
市長時代,「平和」を具現とした公約「折り鶴記念館」建設は霧散したのだろうか。著書に「報復ではなく和解を」(岩波書店)があることを思い出した。
現在、私たちは「原爆文学資料のユネスコ記憶遺産」申請を行うつもりで準備している。(今回は、栗原貞子・原民喜・峠三吉文学資料に新たに大田洋子「屍の街」初稿・原稿を加える作業を粛々とすすめている)市民からの「賛同署名」を開始した。
栗原貞子資料:創作ノート「あけくれの歌」─「生ましめんかな」などの創作ノート。
峠三吉資料:「原爆詩集」最終原稿、8月6日を記録した日記など。
原民喜資料:原爆被災時の手帖。(「夏の花」の基となった)
何れも8月6日直後の惨状を記録し、優れた文学作品として読み継がれ、「世界の記憶」に登録することは世界史・人類史的に重要なことである。
2023・02・22
広島文学資料保全の会・池田正彦
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