この小論考は、「市民の意見30の会・東京」発行の『市民の意見』NO.195号(2023/2/1)に掲載していただいたものに加筆したものです。ご笑覧、ご批評いただければ光栄です。
昨年後半から、広島の反戦・反核運動に関わっている活動仲間たちと相談の上、私たちは、G7広島サミットが開かれる1週間前の今年5月13〜14日に、「G7広島サミットを問う市民のつどい」を開くことを決めた。すでにブログを立ち上げて「呼びかけ文」を載せているので、私たちがこの市民集会を開こうとする意図については、この「呼びかけ文」を参照していただければ光栄である。
https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/
G7が世界的規模で発生させている問題は多種多様であり、そのすべてを短時間の「市民のつどい」で取り扱うことは不可能である。したがって、人類史上初の原爆による無差別大量虐殺の場所となった広島が、G7に対して立ちむかうにあたっては、広島の歴史的背景と現状から鑑みて極めて重要な日本の国内的と国際的な幾つかの問題点に議論を絞るべきであると考え、現在、「市民のつどい」当日のスケジュールについては「呼びかけ人」の間で考慮中である。
限られた紙面の都合上、ここでは3つの問題に絞って私見を述べておきたい。
1) 欺瞞的な「平和」のメッセージを発信する場として広島が政治的利用される理由は何か
広島は2008年9月に開かれたG8下院議長会合、2016年4月のG7外相会合の開催地にも選ばれ、2016年5月にはオバマ大統領が「慰霊」と称して平和公園を訪れた。ところが、いずれの場合も、原爆無差別大量殺戮に対して最も責任の重い米国政府の代表をはじめ、マンハッタン原爆開発計画に参加した英国、カナダを含む7カ国(あるいは8カ国)の代表も、おざなりの慰霊のために平和公園を訪れるだけの「政治的な見世物」に終わっている。
かくして、オバマと安倍が広島の犠牲者の霊を政治的に利用し、米国も日本も、それぞれが戦時中に犯した戦争犯罪の犠牲者に対しての謝罪は一切せずに、結局は広島を日米軍事同盟の強化のために利用したのと同様、今年も再び、広島が欺瞞的で邪悪な政治目的のために利用され、市民が踊らされるだけという結果になるであろうことは初めから目に見えている。
米国のバイデン大統領は、核抑止力をあくまでも重視し、すでに岸田首相に広島では核軍縮は議論しない意向をはっきりと伝えている。その一方で、日本政府は「唯一の戦争被爆国」を売り物にしながら、「最終的な核廃絶」というごまかしの表現で市民を騙し続け、実際には米国の拡大核抑止力に全面的に依拠し続けている。その日本政府の岸田首相が自分の選挙区である広島市をG7サミットに選んだのも、見せかけは「反核」という姿勢を欺瞞的に表示するための政治的たくらみ以外の何ものでもない。あるいは、ロシア・中国・北朝鮮の「核の脅威」をことさらに強調することで、核抑止力を正当化し、市民の間に無自覚のうちにその正当化を浸透させてしまおうと岸田政権は考えているのかもしれない。
よって、これまでの国際会議同様、名称だけの「国際平和文化都市」広島で開く会議が発表する公式声明文に、「被爆者の霊」があたかもG7にお墨付きを与えたかのような、欺瞞的な印象を世界に向けて発信することがG7サミットの一番の目的なのである。
米国は、広島・長崎への原爆無差別大量虐殺を、戦争を終結させるために必要不可欠であったと正当化することで、それらの殺戮行為が由々しい「人道に対する罪」であったことを隠蔽した。その隠蔽を現在も米国は続けている。
一方、日本は原爆被害のみを強調し、「唯一の戦争被爆国」を売り物にすることで、自国がアジア太平洋各地で15年という長きにわたって犯した様々な残虐行為で、中国人をはじめ数千万人の数にのぼる人たちの命を奪った(天皇裕仁の戦争責任を含む)加害責任を隠蔽し、今も隠蔽し続けている。しかも、日米両国は互いの戦争責任隠蔽を黙認しあっている。
つまり、日本側は原爆無差別大量殺戮という重大な「人道に対する罪」を犯した米国の大統領トルーマンをはじめ、それに加担した多くの米国の政治家、軍人、科学者の「罪」と「個人的責任」を追及することもなく、そのような重大な罪を犯した米国の「国家責任」を追及しない。さらには、アジア太平洋戦争という侵略戦争を開始し、結局は原爆無差別大量殺戮を招いた、その日本の国家元首・裕仁や軍指導者、政治家たちの「罪」ならびに「個人的責任」、さらには日本の「国家責任」もウヤムヤにしてしまっている。その「責任ウヤムヤ」は、もちろん、「唯一の原爆被害国」と言いながら、米国の核抑止力を強力に支持するだけではなく、自国の核兵器製造能力を原発再稼働で維持し続けている日本政府の「無責任」と表裏一体になっている。
こうした日米両政府による共同謀議とも呼べる画策ゆえ、大多数の日本人はアジアに対する確固たる「戦争責任」意識を持つどころか、自分たちをもっぱら「戦争犠牲者」と見なし、しかしながら、同時に米国による自分たちへの戦争加害の責任も問わないという、「戦争責任問題」自覚不能の状態にある。それゆえにこそ、米国の軍事支配には奴隷的に従属する一方で、アジア諸国からは信頼されないため、いつまでたっても平和で友好的な国際関係を築けない情けない国となっている。
かくして、日米の戦争責任問題は、実は相互に深く絡みあっている。日米両国ともに自国の戦争責任を隠蔽することで、すなわち多くの犠牲者の人権を徹底的に無視することで、それぞれが自国の民主主義を甚だしく歪め、腐敗させてきた。とくに天皇裕仁の戦争責任をうやむやにしたため、憲法前文や9条と決定的に矛盾する1条を憲法に入れてしまい、それが日本の民主主義を甚だしく歪めている重要な原因だと私は考えている。したがって、戦争責任問題と民主主義の歪みの問題は深く関連していることを忘れてはならない。
2) 「アジア太平洋大規模戦争」の危険性をグローバルな視点からとらえる必要性
2022年2月にロシア軍のウクライナ侵略によって始まった戦争は、2年目に入った。ウクライナ南東部の諸都市が壊滅的な状況となり、800万人近い難民がヨーロッパ各地に流出し、戦闘員のみならず市民に多くの犠牲者が出ているにもかかわらず、「終わり」は全く見えない。NATO(その中心核であるG7)は、引き続き膨大な額の軍事支援をウクライナに注ぎ込んで戦闘を煽り続け、ロシアはそれに対抗してさらにウクライナ各地への無差別的攻撃を強めている。
G7は、東欧のそんな戦争泥沼化の状況を外交によって一日でも早く解決しようという努力には全く無関心である一方で、アジア太平洋地域でも中国と北朝鮮をあからさまに敵視し、この二国を文字通り軍事的に封じ込めようという様々な戦略を米国の主導のもとに急速に拡大している。その「封じ込め構想」のカナメとされているのが、北の日本(とくに沖縄)、南の豪州(とくにダーウィン)、その中間地点の「槍の先端」と呼ばれるグアムである。この2年ほどで、これらの米軍基地には、中国・北朝鮮攻撃を想定した戦略を実施する上で必要な各種の武器が続々と配備されている。しかも、その攻撃戦略がこれまでの海軍力中心であったものに、中国や朝鮮の本土空爆を想定する空軍力の活用を大幅に加えたものへと急速に拡大されていることが一つの特徴である。
その戦略の一つが、核兵器搭載可能の大型爆撃であるB-52H「ストラトフォートレス」戦略爆撃機の運用で、グアムにはすでに4機が配備されており、ダーウィンには近く6機が配備される予定である。また、今年秋までに、「ARRW(空中発射迅速対応武器)」と呼ばれる極超音速ミサイルを、B-52Hに搭載して運用する計画も進めている。ARRWの射程距離は1600キロという長距離で、米空軍発表によると「以前より短い時間内に敏感な目標物を打撃できる能力」を持っており、「迅速な量産を考えている」とのことである。このミサイルを使えば、沖縄の宮古島上空などから北朝鮮の主要軍事施設だけではなく、平壌(ピョンヤン)指揮部を打撃することができるし、中国本土や中国軍空母も攻撃目標となる。G7広島サミットでは、こうした「中国・北朝鮮封じ込め構想」がさらに議論されることは間違いない。
こうした現況を考えると、私たちはG7の動きを世界全体の大きな武力紛争と軍拡のウネリの中で捉えなおし、いかにすれば私たち市民がこの人類自己破滅的な動きをとめることができるような運動を展開できるのかを真剣に考え、実践行動へとつなげていくことが緊急の課題である。
3) 気分はすでに臨戦体制:「空母」と「海軍」
30年前にフィリッピンから完全に撤退した米軍が、再度、フィリッピンの9カ所に基地を設置する計画で、米国がフィリッピン政府と合意したことが2月1日に発表された。台湾防衛がその主たる目的であると米国は主張する。かくして、中国・朝鮮を囲い込む臨戦体制の強化が、ますます急速に進められている。
そんな状況の中、海上自衛隊の「護衛艦 いずも」が実際には「空母」化されており、この「いずも」や目下「空母化」が行われている「かが」が、米英両国の太平洋地域での空母戦略にしっかりと組み込まれつつあることが下記のyoutubeではっきりと分かる。この動画を制作した組織は明らかにされていないが、米国の国防省が何らかの形で関与していることは間違いないと思われる。この動画の中では、「いずも」は最初から「空母」と呼ばれており、海上自衛隊も「海軍」と称されている。「空母」は主として敵地または敵軍攻撃の目的のために、出来るだけ攻撃目標の近くまで接近し、空母から飛び立つ戦闘機や爆撃機で攻撃作戦を展開するための兵器である。このため、「自衛」の目的から外れているというのが従来の自衛隊の解釈であった。形式的にはその解釈をいまだ維持しているため、「空母」という表現は使わず「護衛艦」を使って誤魔化しているわけである。しかし、この動画は、「憲法9条など、どこにあるのか」と言わんばかりだ。
Japanese BILLIONS $ Aircraft Carrier Is Finally Ready For Action!
https://www.youtube.com/watch?v=QCKTjlgUY20
この動画の日本語版も制作されて公開されているが、この日本語版ナレーションも「空母」や「海軍」という用語を堂々と使っている。
「日本の100億ドルの空母がついに就航!中国に衝撃」
https://www.youtube.com/watch?v=zYV-FqTa7tI
「護衛艦」と称する空母「いずも」 |
「いずも」艦上で発着訓練するF35B戦闘機
おそらく、自衛隊も、これまでのように、遅かれ早かれ、なし崩し的に「護衛艦」という表現を「空母」に変えていくに違いない。ちなみに、この動画の中で自衛隊員が被っている帽子に「航空兵器 いずも」と刺繍されているのが読み取れる。「航空兵器」という名称も笑ってしまうような誤魔化しだ。それにしても、中国侵略戦争で活用された装甲巡洋艦「出雲」や、真珠湾攻撃に出動し、ミッドウエイ海戦で敵潜水艦からの魚雷攻撃を受けて大爆発を起こして沈没した空母「加賀」の艦名を、これまた「ひらがな」にして誤魔化して復活させるという自衛隊の復古主義精神には呆れかえる。彼らは、中国側が「いずも」という空母艦名にどう思うのか、あるいは「加賀」の乗組員1700名ほどのうちの半数近い811名が(そのほとんどが火災で脱出不可能となって)犠牲になったという事実から何を学ぶべきか、などという考えには思いもつかないようである。
この数日、米国やカナダ領空に侵入した偵察用気球の撃ち落としがニュースになっている。日本政府は、領空侵犯した外国の航空機に対し、自衛隊法84条に基づいて、正当防衛と緊急避難に限って武器使用ができるとの見解をとってきた。ところが、新聞報道では、日本政府は「外国の気球などが日本の領空を侵犯した場合を想定し、自衛隊の武器使用基準を緩和する方針を固めた。自衛隊法の解釈を変更し、正当防衛などに該当しなくても、一定の条件を満たせば撃墜できることを明確にする」とのこと。「一定の条件」とは、具体的にどのような状況を指すのか。こじつけの「一定条件」を政府は目下ひっしに考えているのであろう。これまた、「自衛」の解釈を急速に無意味化しようという日本政府の無節操な企ての一例だ。岸田は安倍と同じように「嘘も一時の方便」と考えているようで、政治家に要求される凛とした倫理的信念などカケラもないようだ。
このように、米軍主導のG7、さらにはNATOをも含む、アジア太平洋における急速な攻撃体制の強化は、中国や北朝鮮の戦略構想をも急激に攻撃的なものへとエスカレートさせている。かくして、アジア太平洋地域はいまや文字通り「臨戦態勢」となっており、大規模戦争の危険性は、日本政府の最近の「敵基地攻撃能力」保有や「安保関連3文書」閣議決定などからも、ますます高まっている。
私たちはいまや、一人ひとりが「自己存在の危機」という由々しい状況に追い込まれつつあるのだということを、明確に認識する必要がある。
田中利幸(歴史家)
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