2015年7月7日火曜日

ドイツからの報告


私は先週水曜日からドイツに滞在中です。
先週木曜日7月2日から土曜日4日までは、ハンブルグ社会研究所主催の国際会議Against Our Will - Forty Years after: Exploring the Field of Sexual Violence in Armed Conflict(踏みにじられた意思 40年後の今:武装紛争時における性暴力問題を考える)に出席しました。この会議は、私もメンバーの一人になっている、ハンブルグ社会研究所の軍性暴力研究プロジェクト・チームが昨年から開催計画を進めてきた会議でした。世界各国から80名ほどのフミニスト学者・活動家がこの会議に出席しました(男の出席者は私を含めてわずか4名ほどでした。日本からは中原道子さん<早稲田大学名誉教授>と渡辺美奈さん<女たちの戦争と平和資料館>の2人が出席されました)。会議のタイトルAgainst Our Willは、今から40年前の1975年に出版された、スーザン・ブラウンミラー(現在81歳)というアメリカのフミニスト活動家が執筆した本のタイトルをそのまま使いました。
Against Our Will: Men, Women and Rape 1975
もちろん、スーザンから許可をもらって会議のタイトルに使っただけではなく、実は、この会議は彼女の本の出版40周年を記念して開催するという意味も含めたもので、したがって、スーザンを基調講演者としてニューヨークから招待しました。この本は、世界の各地で行われている「強姦」の様々な形態、とりわけ戦争/紛争時における「強姦」の具体例を網羅的に分析し、「強姦」は男にとっては「武器」であるという鋭い批判的論理を打ち立てた、当時としては画期的な著作でした。たちまち欧米各国で話題となり、その後これまで長年にわたって世界各地のフェミニスト運動に多大な影響を与え続けてきました。この本は、これまで30カ国語以上に翻訳されていますが、日本語版も2000年になってようやく出版されました。日本語版は『レイプ踏みにじられた意思』勁草書房 ですが、残念ながら、日本では女性の間でもあまりよく知られていないようです。南京虐殺時の大量強姦、軍性奴隷制による無数の女性虐待、さらに現在増加し続ける家庭内暴力、ストーカーなど、女性に対する様々な性暴力問題を抱えている日本で、世界で広く読まれてきたこの本の翻訳がこれほどまでに遅れ、出版された後もあまり読まれていないのはなぜでしょうかね。考えてみる必要があると思います。
ハンブルグでのスーザンの「基調講演」は、彼女が一方的に講演するという形をとらず、研究プロジェクトのドイツ人メンバーであるガビー・ジップフェルと私の2人が、出席者全員の前で、この書著に関していろいろスーザン本人に質問するという対談形式をとりました。そのほうが、講演を一方的に聴くよりはおもしろいのではないかという考えから、こうした形式をとりました。その内容については、近くウエッブに載ると思いますので、その折また報告します。
実は、スーザンは、私が2002年に出した慰安婦問題の英文拙著の「まえがき」を書いてくれた人です。その著書はJapan's Comfort Women: Sexual Slavery and Prostitution During World War II and the US Occupationです。しかし、これまで彼女とはメールでしか交流がなかったので、実際に会うのは初めてでした。本からは「こわい女性」というイメージを受けるのですが、実際に会ってみると、実に柔和で、気さくで、おしゃべり好きな「おばあさん」という感じの人です。しかし、一旦、性暴力について話し出すと、様々なアイデアでとうとうと持論を述べる、元気いっぱいの人です。本当に感激しました。
 
スーザン・ブラウンミラーと私(ハンブルグにて)
この会議では、アフリカ、アジア、ヨーロッパにおける様々な戦争/紛争時における性暴力のケースについての研究報告が行われました。その中で、私が特に関心をもった発表は、ボズニア・ヘルツェゴビナ紛争での「民族浄化」という名称で行われた大量強姦の被害者女性たちの現状についてでした。紛争が終わってから20年たちますが、いまだに無数の犠牲者たちがPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされ続けています。しかし、そうした犠牲者に対する支援が全く不十分だという現状はほとんど知られていません。戦争が終わると、忘れ去られるのは、いつもこうした女性や子供の戦争被害者であることを、あらためて痛感させられました。
75日(日曜)にハンブルグから列車でベルリンに移動。昨日月曜日の夕方は、独日平和フォーラム、ベルリン日本女性イニシアティブの会、在独韓国人グループの共催による、「日本政府の修正主義的政策」と題する講演会で、私が「安倍政権と戦争責任問題」について、渡辺未奈さんが「安倍内閣の『慰安婦問題』政策」について講演。市民60名ほどの参加者がありました。この集会の内容についても、後日、機会があれば報告します。

この集会とは別に、つい最近、ドイツのネット・ジャーナルDigital Development Debatesに依頼されて書いた核兵器問題に関する英文拙論A Proposal from Hiroshima(広島からの提言)が数日前に掲載されました。ご笑覧いただければ光栄です。
 


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