2025年8月6日水曜日

原爆問題に関するカナダの新聞報道とメルボルン大学ZOOM講演について

― 日本の「招爆責任」と米国の「招爆画策責任」をめぐって ―

 

米軍による広島と長崎に対する原爆無差別大量虐殺から80周年にあたる今年は、海外のメディアも盛んに特集報道をくんでいます。そんなメディアの一つであるカナダの大手新聞のフランス語新聞Le Devoir 3回連続の記事をつい先日発表しました(周知のようにカナダではフランス語が英語と並んで公用語となっています)。その第1回は「日本を降伏させたのは原爆だったのか?」、第2回は「ヒロシマ・ナガサキ、あるいは日本が侵略者から被害者になったとき」というタイトルで、原爆をめぐる歴史問題に焦点を当てた報告になっています。なお、第3回は日本被団協の田中煕巳氏へのインタビューです。

最初の2回の記事では、J・サミュエル・ウォーカー(元米国原子力規制委員会歴史家)で『Prompt and Utter DestructionTruman and the Use of Atomic Bombs against Japan』の著者、次にカリフォルニア大学サンタバーバラ校の歴史学名誉教授で『Racing the Enemy』(日本語版『暗闘:スターリン、トルーマンと日本降伏』)の著者である長谷川毅、それに私 Yuki Tanaka の3人の見解を紹介しています。

サミュエル・ウォーカー氏は、「戦争をできるだけ早く終結させるためには、原爆投下は不可欠だった」という米国政府の公式見解をそそのまま継承する多くのアメリカ人歴史家たちの見解を代表するような人物です。一方、長谷川さんの著書は「ソ連の参戦が日本の降伏における最も決定的な要因だったと」という史実を、米ソ両国の関係公文書類を克明に分析して指摘した名著で、私も長谷川さんと同じ見解をとっています。

 

原爆攻撃直後の広島の遠景

 

この記事を書いた女性記者が私にインタビューを求めてきたとき、「私の見解は拙著『Entwined Atrocities: New Insights into the US-Japan Alliance(拙著『検証「戦後民主主義」:わたしたちはなぜ戦争責任問題を解決できないのか』に大幅に加筆し、英文にした本)で詳しく述べている。その骨子はつい最近英語のオンライン・ジャーナルに掲載した論文Political Lies Are More Plausible Than Reality: American and Japanese Lies about Atomic Bombing: https://apjjf.org/2025/6/tanaka で読めるので、それを読んでからインタヴューして欲しい」と返答しました。

ところが、彼女のE-mail でのインタヴューによる私に対する質問から、彼女が私の本はおろか論文すら読んでいないことがはっきり分かりました。(彼女が読んでいた可能性のある私の本は『Hidden Horrors: Japanese War Crimes in World War II』で、この本では私は原爆問題を全く扱っていません)。彼女の質問はもっぱら、米国による天皇裕仁の戦後の政治的利用と国民的レベルでの戦争(加害)責任感の欠落の関係についてで、それらの質問に対する私の応答は第2回目の記事で確かに紹介されてはいますが

しかし、私が自分の最近の英語著書と論考で最も重要な問題として議論している(1)天皇裕仁(ならびに日本政府)が戦争をやたらに長引かせたため米国の原爆攻撃を招いてしまった「招爆責任」と、米国側も実は日本側が米軍による原爆攻撃を招くように画策した「招爆画策責任」、その両方の相互関連性、(2)「原爆が使われなければ戦争は終結できなかった」という米国が作り上げた大嘘=神話と、「原爆攻撃を受けたので戦争を終結させた」という裕仁と日本政府が作り出した虚妄=神話、この両国の神話=政治的嘘が戦後80年にわたって、あたかも真実であるかのごとく日米両国民のみならず世界的に信じられてきた大問題、これについてはこの3回連続記事では全く触れられていません、実に残念です。

これまで誰も指摘してこなかった日米両国のこれらの大嘘を暴き、全世界の人々に史実をしっかりと知ってもらうのは並大抵のことではないことを、私はこの数年痛感しています。ハンナ・アーレントが述べたように、「政治的嘘は真実よりも、はるかにもっともらしく聞こえる」のです。

Le Devoir による原爆問題3回連続記事(フランス語ですので翻訳アプリを使って読まれることをお勧めします):

https://www.ledevoir.com/monde/906472/est-ce-bombe-atomique-force-reddition-japon

https://www.ledevoir.com/monde/906478/hiroshima-nagasaki-ou-quand-japon-est-passe-agresseur-victime

https://www.ledevoir.com/monde/906475/ce-j-ai-vu-marque-vie-temoignage-survivant-nagasaki

 

上記2つの問題については、今年4月に行われたアメリカの近現代史学会向けの私のZOOM講演でもできるだけ簡潔明瞭に解説しておいたつもりです。実は、この4月のZOOM講演のすぐに後に、光栄にも、メルボルン大学日本研究学科の学科長である小川晃弘教授から連絡を受け、813日(来週水曜日)の午後12:301:30メルボルン時間(日本時間11:3012:30)に、同じ内容のZOOM講演のご依頼を受けましたので、喜んでさせていただくことになりました。この講演は、メルボルン大学だけではなく、メルボルン大学と姉妹校(?)である東京外国大学との共同企画として行われるようですが、大学外の一般の視聴者も無料で受け入れていただけるようです。ただし視聴ご希望の方は前もって登録が必要で、下記URLに入って「Register」をクリックして登録を済ませてください。英語での講演で日本語通訳がないため申し訳ありませんが、英語の勉強として拝聴していただければ私としてはたいへん嬉しいです。

https://events.humanitix.com/political-lies-are-more-plausible-than-reality-american-and-japanese-lies-about-atomic-bombing

なお、先月29日にABC(オーストラリア公共放送協会)からも戦後80周記念の番組制作のために太平洋戦争期のいくつかの問題についてインタヴューを受けました。そのときに受けた質問と応答についても、英語ですが、ブログに載せておきました。ご笑覧いただければ光栄です。

http://yjtanaka.blogspot.com/2025/08/my-thoughts-on-some-war-issues-at-80th.html

 

日本では猛暑が続いているようです。どうぞくれぐれも健康に留意され、お元気で市民運動を続けられますように。みなさんのご健闘を祈ります。

 

田中利幸

 

 


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