夫婦別姓をめぐる嘘のような本当の笑い話 – 個人的体験 -!
このところ、コロナウイルス関係のニュースばかりで、他の多くのニュースが無視されている状況です。そこで今日は、夫婦別姓問題について、自分の体験をお話ししてみたいと思います。私がオーストラリア人の連れ合いと結婚したのは1981年2月でした。1980年に日本政府は「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に署名しました。この条約では選択的夫婦別姓の導入が要求されていましたので、日本政府は条約を批准した1985年からは選択的夫婦別姓制度を導入しなければならないはずでした。ところが、日本政府は、国際結婚だけに選択的夫婦別姓を許し、日本人どうしでは許さないというダブル・スタンダードで、明らかな条約無視をずっと続けているわけです。国連の女子差別撤廃委員会からのたびかさなる勧告を無視続けて、破廉恥にもあからさまに条約を実質的には拒否し続けています。そのうえ、国会にもたびたび出される選択的夫婦別姓関連の法案をこれまで全て無視し、裁判所も、次々と不服申し立て却下、提訴棄却の繰り返し。政治家や裁判官には、この問題がきわめて深刻な女性差別という人権問題であるという認識が全くないようです。
ともかくも、私が結婚した1981年段階では、国際結婚でも選択的夫婦別姓を許可していませんでした。ですから、私はこの問題で、当時、結婚届けを出そうとした日本領事館のスタッフと少々言い争いをやりました。笑い話のような内容ですが、本当に私が体験したことです。笑って読んでいただければ光栄です。
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下記は、1981年2月のある日の、豪州メルボルンの日本領事館における私と領事館員のやりとりです。ちなみに< >内は私の独白、あるいは解説です。
田中:
先日、メルボルンの婚姻登録事務所で結婚式を挙げ婚姻届けを出しました。つきましては、日本のほうにも婚姻届けを出したいのですが……。そのオーストラリアの婚姻証明書を含め必要な書類を持参しました。
<オーストラリアでは、婚姻登録事務所で、事務官の前で、結婚する二人がお互いに誓約を述べ、書類に署名し、指輪交換、キス(最後の二つは別に強制ではありませんが、当然やるだろうと事務官が「ハイどうぞ」とすすめます<笑>)という簡単な「結婚式」を無料で挙げることができます。私は、当日、妻のために花束を買い、その花束を持った彼女と二人で婚姻登録事務所に行き「結婚式」を挙げました。参列者=証人は妻の両親だけでした。妻の母親(彫刻家)が作ってくれた指輪を、結婚指輪として使いました。>
領事館員:
それでは、この書類の必要ヶ所に記載してください。書類を拝見しますと、奥さんはオーストラリア人の方ですね。
田中:
はあ〜、そうですが。私の連れ合いは「奥さん」と呼ばれるのが大嫌いなので、「連れ合い」と呼んでください。
<まあ、こんなことをこの領事館員に言っても分からないだろうがなあ……。実は、妻はメルボルンのモナシュ大学で日本語・日本研究を専攻し、1970年代後半、大学院在学中に文部省奨学金で早稲田大学に2年ほど留学しました(柳宗悦の「民藝運動史」の研究)。その日本滞在中のホスト・ファミリーの父親がえらく亭主関白で、例えば、仕事から帰宅するとすぐに、廊下を歩きながらスーツ、ネクタイも靴下も放り投げ、それを「奥さん」が拾い歩くという毎日。夕食の時は、「酒」、「ご飯」、「お茶」と、要求するときだけ「奥さん」に向けて言葉を発するといった具合。その他、大学でもどこでも、あらゆる場所で男超優位の社会を見せつけられて、日本の男が大嫌いになりました。私も彼女の気持ちは十分すぎるほどわかります(苦笑)。そんなわけで、女性を家の「奥」に閉じ込めておこうという男の身勝手な意識をそのまま表現しているような「奥さん」という表現が大嫌いです。>
記載済みの必要書類を領事館員に提出すると
領事館員:
え〜とですね、「奥さん」、じゃなかった、「お連れ合い」のお名前ですがね。「田中キング」さんになっていますが、こういう名前は日本では使えないです。ですから単に「田中」と記載してください。
田中:
いや、連れ合いは「田中」にはなりたくないと言っています。ご覧のようにオーストラリアの婚姻証明書では「田中キング」になっていますし、パスポートも最近新しくして「田中キング」になりました。私も本来なら「田中キング」に名前を変えるべきなのですが、私は、言うまでもなく連れ合いは大好き、いや誰よりも好きですが、「キング(王様)」という名前が大嫌いなので、「田中」のままにしてありますが…… 。<Kingキングという名前は英語圏ではひじょうに多いですが、これは、もともとはKing’s man (王様の召使)という表現からきているもので「’s man」を省略した表現だそうです。ですから「王様」ではなく「王様の召使/奴隷」という意味で、そんな「召使/奴隷」は昔はワンサといたわけですから、いま「キング」という姓の人間が多いわけですね。ともかく、私は「王様」にも「王様の奴隷」にも決してなりたくはないです。もちろん、先祖が極貧の水呑百姓の「田中」では、「王様」にはなりたくてもなれないでしょうが(笑)。とにかく、私は「王様」も「天皇」も大嫌いです。>
領事館員:
いや、そう言われてもですね、日本では夫婦別姓は許されていませんし、お連れ合いの苗字、つまり「姓」を、自分の元の苗字である旧姓と合わせて使うということも許されてはいないのです。ですから、ご夫婦のうち、そのどちらかの姓を選んでいただかなくてはなりません。普通は、みなさん、男性のほうの姓を選ばれますがね。
田中:
いや〜、困りましたね。連れ合いは「絶対に田中にはなりたくない」と言っているので…… 。 <かなり考えた上で、書類の上だけで「キング」の姓にしておき、実際には私がそれを使わなければよい、と決めて> それでは、私が「キング」になりますので、連れ合いの名前も元の「キング」のままにしておいてください。<実は、私の父もいわゆる「養子」として母の田中家に入り、名前は河合から田中に変えました。そんなわけで、私にも、別に名前を変えること自体には全く抵抗がありません。>
領事館員:
確かに「ご夫婦、そのどちらかの姓を選んでいただかなくてはなりません」とは言いましたが、「キング」という英語名をカタカナにしたものも日本では使えません。漢字で書ける名前でないといけません。
田中:
<いったいなんだ、これは?日本の婚姻登録はまるで江戸封建社会時代と変わっていないではないか。ここまで来て、我慢していた私も堪忍袋の緒が切れました。なんだと、漢字で書けだと。おお、それなら漢字で書いてやろうじゃないか!>
ではですね、「金具」という漢字を使いたいと思います。「金具」と書いて、「かなぐ」ではなく「きんぐ」と読みます!それでいいでしょうね!<自分で言っておきながら、これはまるで落語だな〜。クソまじめな領事館員にこのすばらしいユーモアが分かるかな、分からないだろうな〜。>
領事館員:
え!そんなめちゃな、無理ですよ……。当用漢字の読みかたでないといけません。
田中:
そんな阿呆な規則、いったい誰が決めたんですか!「金具」を「きんぐ」と読むのは当用漢字の読み方ではないと言うのですか。どちらが「めちゃな無理」を言っているのか……。もういいです、連れ合いと相談して、出直してきます!
<あいつは、私に二度と「出直して」きてはもらいたくない、という顔をしていたなあ……。上から言われるままに伝えなければならない小官僚も可哀想ではあるが……。なにがおもしろくて、あんなつまらない仕事をしているのか……。少し落語でも聴いてユーモアのセンスを高めたらどうかね。あいつらプチ官僚と話していても全くおもしろくねえ〜な。帰ったら、円生師匠の落語を聴きながら冷酒を一杯、いや数杯飲まなきゃいられないわ。今晩は、連れ合いに少しおおめに見てもらわなきゃ。ブツブツ……ブツブツ……>
いまは外国人で日本に帰化する人も多くなったようで、そのためカタカナでの姓名登録が許されているのかもしれませんが(調べたわけではないのでわかりませんが)、当時はこんな馬鹿げた規則のために、越前の田んぼの中の水呑百姓の末裔である私、田中は、幸か不幸か、やはり「キング(王様)」にはなれませんでした(笑)!
それにしても、あれからもうすぐ40年経ちますが、いまだに夫婦別姓は許されず、男性優位社会の日本。この状況は基本的には、40年たっても何も変わっていないですね。電車内で痴漢が多いので、「女性専用車両」を提供しているなどという世界でも稀な、恥ずかしい国。強姦まがいのセクハラをしたジャーナリストが、有力政治家(誰かは想像におまかせします)の助けもあったようで、刑事裁判には訴えられないような、こんな極悪なことがまかり通る社会。夫婦別姓に公の場で反対意見を堂々と表明する首相が、一方では「女性活躍」政策などと、真っ赤な嘘を言って恥ずかしいとも思わない破廉恥ぶり。その親分首相の子分である杉田水脈が、国会で夫婦別姓に反対して「(夫婦別姓に賛成なら)結婚しなくていい!」と野次を飛ばすような、低劣な政治家が跋扈する国。
選択的夫婦別姓制度をとっていない国は、もうほとんどないのではないでしょうか、とりわけいわゆる先進国では。日本は、実際には、いまだ「女性搾取社会」、「女性差別社会」。象徴天皇が「女性差別の象徴」の国ですから、あたりまえと言えばあたりまえなのですが。
笑い話を提供したつもりですが、なんとも情けなくなってきました、すみません。40年も前のことを思いだすんではなかった。あ〜、やっぱり、今晩も冷酒をキュ〜と一杯、でかいグイノミでやらないと、眠れないな〜。
😂わらかしていただきました。
返信削除「政治家や裁判官には、この問題がきわめて深刻な女性差別という人権問題であるという認識が全くないようです。」まったく!です。
夫婦同姓強制の国は、今や世界で日本のみ、と国会答弁でも国が認めています。世界の国々に人権問題で何周も周回遅れの国で主権者でいることが本当に恥ずかしいです。