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2022年4月30日土曜日

「ウクライナにおける核兵器使用の危険性」

 Nuclear Peace Foundation主催のZOOMセミナーを視聴して

 

今朝は、豪州メルボルン時間の4時半に起き、少し濃いめのコーヒーを作って、ゆっくり味わいながら眠っていた頭をなんとか目覚めさせ、5時からはじまった、米国のNuclear Peace Foundation主催のセミナーの、ノーム・チョムスキー、ダニエル・エルズバーグ、リチャード・フォークによる「ウクライナにおける核使用の危険性」を視聴しました。参加者460名余りで、始まる前に参加者の名前を全部チェックしている時間的な余裕はもちろんありませんでしたが、大急ぎでざっとみたところ、アメリカン大学のピーター・カズニックほか数人のアメリカの友人の名前を見つけ、日本人としては3人ほどの女性(そのうちの一人は京都の友人)の名前があるのに気がつきました。他にもまだおられたかもしれませんが。

 

3人のスピーカーの解説や意見は、すでにエイミー・グッドマンがホストを務めるアメリカの進歩的な報道番組 Democracy Now やネット・ジャーナルZNETなどで、常に詳しく紹介されていますので、別段驚くような新しい見解発表はありませんでした。しかし、ウクライナ戦争が突然起きた紛争ではなく、第2次世界大戦後の冷戦時代からこれまでの世界各地での戦争・軍事紛争の歴史的背景との密接な連続性から発生した、必然的とも言える戦争であることを、あらためて強く再認識させられた思いがします。

 

セミナーは録画されていましたので、近い将来にYoutubeで観れるようになると思います。和訳の字幕付きでもこのセミナーが観れるようになることを期待しています。3人の解説を詳しく紹介している時間はありませんので、彼らの解説を聴きながら私自身が考えた幾つかの点を、自分の記憶のためにも箇条書きにしておきたいと思います。

 

1)やはり根本的な問題は、米国の軍産複合体制を根幹にしている Pax Americana(

軍事支配による「平和」維持)という米国の帝国主義的資本主義体制の存在。この巨大な暴力的怪物とも言える支配体制に組み込まれた、ヨーロッパにおける支配機構であるNATO(北大西洋条約機構)は、本来ならばソ連崩壊が起き、ロシアからの核・軍事攻撃の危険性がいちじるしく弱まった時に、解体されるべきものであったはずです。

 

2)ところが、米国はロシアを引き続き「敵視」し続けることで、NATOに米国の核抑止戦略の一大軍事機構としての機能をそのまま維持させてきました。この背後には、米国の軍産複合体制が、戦時であれ平和時であれ常に膨大な軍事予算を要求するという問題があります。ソ連崩壊にもかかわらず、米国が軍事予算拡大政策にブレーキをかけることのできるようなメカニズムが軍産複合体制には備わっていなかったし、今も備わっていないという、大きな矛盾が決定的な問題です。つまり、軍産複合体制は常に「仮想敵国」の存在を必要としているのです。ソ連崩壊後のNATO存続が、中国の核武装化をさらに推し進めることになり、ひいては北朝鮮を核開発に向けて走らせる重要な要因の一つになったことは明らかです。

 

3)今回のロシアによるウクライナ侵略の原因は、いったい何なのでしょうか。2004年のバルト三国のNATO加盟の時より、ウクライナのNATO加盟のほうが、地政学的に観てはるかにロシアの安全保障を脅かすものであるという怖れが、プーチン政権をウクライナ軍事攻撃に至らしめた大きな要因の一つであることは間違いないでしょう。ウクライナがソ連時代のロシアにとって、NATOと対峙する上で軍事的にいかに重要であったかは、このウクライナにソ連の核兵器が最も多く設置されていたことからも分かります。

 

4)しかし、それだけではありません。プーチン政権の意図は安全保障の問題だけではなく、ウクライナは元々ロシア領土であり、ロシアに支配権があるという帝国主義的発想=ナショナリズムにも深く根ざしていることは、これまでのプーチンの言動からも明らかです。支配権があるロシアに抵抗する者は市民であれ戦闘員であれ、無差別に殺すというプーチンの残虐非道な殺戮行動は、もちろん決して許してはなりません。

 

5)実際には、ウクライナ戦争は、ウクライナに侵攻したロシア軍と、膨大な額の軍事支援でウクライナの対ロシア戦を援助するという形で米国がウクライナにやらせている「代理戦争」と言うべきものだと私は考えます。

 

5)よって、チョムスキー、エルズバーグ、フォークの3人が共通した見解として述べたように、この戦争はそう簡単には終結しないであろうと思われます。終結への見通しがつかないどころか、フォークが述べたように、ウクライナ大統領ゼレンスキーは、時間が経つごとにますます米国とNATOの軍事支援への依存を強めることで、戦況を泥沼化させているのが現状です。このまま米国とNATOによる軍事支援が増大し続け戦況がさらに悪化すれば、エルズバーグが述べたように、プーチンによる小型核兵器の使用が現実化する危険性は十分にあります

 

6)そのような戦争の泥沼化と小型核兵器の使用の危険性をさけ、一刻も早くウクライナ市民の死傷者続出を止めるためには、米露の二国間による直接の交渉しか解決の道がないように私には思えます。どうやったら米露両国を直接の交渉のテーブルに早急につかせることができるのか、このことを市民運動として展開するために私たちはどうしたらよいのか、それを真剣に考える必要があると私は思います。

 

7)核兵器廃絶の市民運動は、したがって、単に「核保有」を批判し「核兵器廃絶」を唱えるだけでは、決してその目的を達成できないというのが私の持論です。核兵器保有を正当化している、上記のような米(NATO)露中などの軍事政策・戦略、さらには帝国主義的な拡大主義に対して私たち市民がいかに抵抗し、いかにそれらを崩していくことができるのか。そのような米(NATO)の政策を追従する以外に、なんの独自の展望も持たない日本政府の政策をどのように転換させたらよいのか。そのための市民運動はどうあるべきか……、そのような展望が核兵器廃絶の市民運動には必要不可欠です。残念ながら、そのような複合的アプローチの発想が、とりわけ日本の核兵器廃絶の市民運動には欠落しています。(この点で、私は、日本の憲法前文の思想に立ち返り、その思想を市民運動でいかに具現化していくか、そのことを真剣に考えるべきだと思います。この点で小田実の著作は今も示唆に富むものです。)

 

8)実は私たちは忘れてしまっているようですが、ソ連が崩壊した直後、独立したウクライナが米露両国の圧力から、保有していた恐るべき数の核兵器を放棄し、非核兵器保有国となり、核兵器不拡散条約(NPT)に加盟しました。そのとき私たちは、エルズバーグが述べたように、ウクライナを核兵器廃絶と核兵器保有拒否のモデル国とみなし、このような政策をいかにしたら他の核兵器保有諸国に採用させることができるのか、そのような積極的な展望について一時期議論したことがありました。ところが、ウクライナはNATOと米国への接近を強め、米(NATO)の核抑止力の傘下に入ることを望むようになってしまい、モデル国としてのウクライナについてはすっかり忘れられてしまいました。

 

9)エルズバーグが繰り返し述べていたように、今、「米国は台湾を中国からの侵略の危険性からいかに防衛できるか、そのための軍事戦略はどのようなものであるべきか」が盛んに議論されています。台湾がウクライナのような凄まじい軍事破壊を中国から受けないためには、防衛のための軍事戦略ではなく、台湾をいかにしたら平和的で民主的な状態で存続させることができるかという議論が、今こそしっかりと中国を含むアジア諸国間でなされるべきなのです。メディアも、そうした議論が私たち市民の間で展開されるような場を積極的に作っていかなければならない時なのです。ところが、日本でも他国でもそのようなメディアはほとんど存在しません。

 

10)チョムスキーによると、米国のある世論調査によると、アメリカ人の3分の1が「ウクライナ戦争への米軍の直接介入」を望んでいるとのこと。核兵器はもとより戦争が多くの市民をいかに悲惨な状況に陥らせるのかという、その現実を多くのアメリカ人たちが認識していないことをこの世論調査の数字が明確に表していると、チョムスキーは述べました。これは、米国がメディアを通して情報操作をいかに強く行っているのかをも表示しているのだとチョムスキーは述べましたが、同じことは日本にも、私が住むオーストラリアにも言えると私は思います。

 

11)エルズバーグは、セミナーの最後のほうで次のように述べました。9・11テロ攻撃で歴史上アメリカ本土が初めて攻撃目標になり、その結果多くの被害者を出したとき、各被害者の顔が具体的に見える形で、多くのアメリカ人たちが「戦争がいかに悲惨であるか」を実感させられた。この事件でアメリカが世界各地で長年行ってきた戦争に対する強い反対運動が展開されていき、アメリカという国を変えていくのではないかと、彼は思ったそうです。ところが、そんな彼の期待はみごとに破られてしまった、と。

 

12)このエルズバーグの述懐を聴いて私が思ったのは、3月4日に私がこのブログで紹介しました、加藤周一の提案である「歴史克服のための新しい文化創造」の重要性です。「被害者の痛みを自己の痛みとして内面化し、その倫理的想像力で、自分たちが日常生活でどっぷりと浸っている既存の文化を、真に人道的で心温まる文化へと変革していくこと」、こうした文化変革が地道に全国的な規模で行われなければ、真の国民精神的な変革は不可能です。そうした新しい文化創造の運動を、市民運動として展開していくことが、時間がかかることは間違いないですが、日本にもアメリカにも必要なのです。結果はすぐには見えるような形では表れませんが、とりわけ、子どもたちや若い人たちが平和に暮らせる世界を作り上げるには、長期的展望にたって、この種の喜びのある楽しい文化創造運動を、粘り強く行っていくことが必要だと私は思います。

 

3人の文字通りの「知の巨匠」の話から刺激を受け、凡庸な私もまだまだ述べたいことはありますが、今は時間がないので、このくらいにしておきます。それにしても、チョムスキーは93歳、エルズバーグもフォークも91歳と、高齢にもかかわらず、相変わらず鋭敏な頭脳と素晴らしい記憶力、それに強烈な知的活気性!本当に頭が下がります。私が彼らの歳になるまでにはまだ20年近くありますが、現在の私の毎晩のアルコール消費量から考えるに、もう数年もすれば私のような凡愚の脳は完全に機能停止になる危険性は十分あります。連れ合いにも毎晩そう言われていますが、それにもめげず飲んでいます(笑)。

 

COVID-19感染を避けるために、握手や手を使わないで他人に触れることで「社会的距離」をとることが盛んに行われています。私の大好きな詩人で漫画家のルーニッグが、そんな状況を面白く描いた漫画を紹介して、今日のブログを終わりにします。読んでいただき感謝です。

 

驚くべき肘アテ人間たち

 


 

 

 

横断歩道での交通信号機のボタンを押すときに仲間同士で肘アテ

孫の頭をなでる代わりに肘アテ

モーツアルト作曲ピアノ・コンチェルト23番イ長調の肘アテ演奏

核兵器での大破壊のために肘アテで赤いボタンを押す!

2022年4月12日火曜日

Art and Activism in the Nuclear Age

核時代の芸術と市民運動

 

4月7日から5月14日までオーストラリアのシドニー大学のティン・シェッド・ギャラリーで広島・長崎、ビキニ環礁、マラリンガ、チェルノブイリ、福島の核被害をテーマにした芸術作品の展覧会が開かれています。この展覧会に合わせて、5月7日(土曜)には関連のZOOMシンポジュームが開かれます。全て英語で行われますが、視聴は無料です。ただし、視聴を希望される方は前もって登録が必要です。詳細については下記の案内をお読みください。(5月7日のシンポの最後の第4パネルでは、核被害の記憶の継承だけではなく、戦争加害責任感を向上させる上で、日本の伝統芸能である能楽がいかに強力な文化的媒体となりうるかについて、シドニー大学名誉教授アラン・マレットと私の二人が発表を行う予定です。)なお現在、シドニー時間は日本時間より1時間早いことにご留意ください。

 

An exhibition of artwork concerning atomic bombing, nuclear tests and nuclear power accidents is currently on show at the Tin Sheds Gallery, Sydney University. On May 7 a public ZOOM symposium will also be held to discuss various anti-nuclear art and civil movements. Professor Allan Marett and I will be running a panel entitled The Power of Traditional Japanese Noh Theater in the Nuclear Age.” Registration is free but required in advance. For more detailed information, please see below.

 

TIN SHEDS GALLERY

 

The University of Sydney School of Architecture, Design and Planning

148 City Road, Darlington, Wilkinson GO4

The University of Sydney, NSW 2006

 

Art and Activism in the Nuclear Age

7 April – 14 May 2022

Exhibition featuring rarely shown artworks on

Hiroshima, Nagasaki, Bikini Atoll, Maralinga, Chernobyl and Fukushima.

The exhibition and accompanying symposium and seminars, all free entry, will provide a unique opportunity for the public exchange of ideas and perspectives between activists, academics and artists committed to finding a way forward in the search for peace and nuclear disarmament.

https://www.sydney.edu.au/architecture/about/tin-sheds-gallery/art-and-activism-in-the-nuclear-age.html

 

PUBLIC SYMPOSIUM

Saturday 7 May 2022, 10-5.30pm, on zoom

Building on the momentum of grassroots campaigns in Australia, Japan and across the globe, the symposium invites participants to explore the political and cultural shifts that have accompanied the transition to a nuclear world since the 1940s, and the current achievement of the United Nations treaty banning nuclear weapons that took effect on 22 January 2021.

Join us in Discussion Panels led by Okamura Yukinori, curator at Maruki Gallery, Maralinga Tjarutja artists, ICAN founders, Allan Marett and Yuki Tanaka on modern Noh performance. See over for details and registration.

 

SATURDAY GALLERY TALKS

In person, Tin Sheds Gallery Theatre. 2.30-4.00pm.

Saturday 23 April. Merylin Fairskye, “Long Life: the Slow Violence of Radiation”. With Paul Brown. See over for details and registration.

Saturday 30 April. Roman Rosenbaum,“Manga as Nuclear Art: Contemporary Perspectives of Hiroshima and Nagasaki”. See over for details and registration.

 

Enquiries: Dr Yasuko Claremont: yasuko.claremont@sydney.edu.au

 

Organising Committee: Paul Brown, Yasuko Claremont, Judith Keene, Elizabeth Rechniewski, Roman Rosenbaum.

 

PROGRAMME OF FREE PUBLIC EVENTS

 

Exhibition Launch: Thursday 7 April, 6-8pm.

Art and Activism in the Nuclear Age / Promise of Housing. Registration: https://events.humanitix.com/tin-sheds-gallery-opening-or-aana

 

SYMPOSIUM, SATURDAY 7 MAY 2022

10am to 5.30pm, on zoom

A public symposium to exchange ideas and perspectives between artists, activists, and academics will consider methods for engaging the public in our continuing search for peace and nuclear disarmament.  We would like to thank the discussants: Okamura Yukinori, curator at Maruki Gallery, Maralinga Tjarutja artists joining us from Yalata, ICAN founders, Allan Marett whose authority on Aboriginal music and culture has produced a modern Noh performance on atomic art, and peace activist and author Yuki Tanaka.

 

Registration for all Symposium panels : https://events.humanitix.com/public-symposium-art-and-activism-in-the-nuclear-age

 

10 am. Conference Opening and Acknowledgement of Country

Panel 1: 10.10 to 11.30. “Past and Contemporary Visual Atomic Art.”

Yukinori Okamura, Roman Rosenbaum. Chair: Yasuko Claremont.

 

Panel 2: 11.45 to 1.15. “Indigenous Artists in Atomic Art.” Maralinga Tjarutja artists. Chair: Paul Brown.

 

Panel 3: 2pm to 3.30.ICAN and Civil Anti-Nuclear Movements.”

Tilman Rush, Dimity Hawkins, Gem Romuld. Chair: Elizabeth Rechniewski 

            

Panel 4: 3.45 to 5.15pm.The Power of Traditional Japanese Noh Theater in the Nuclear Age.” Allan Marett, Yuki Tanaka. Chair: Judith Keene.

 

SATURDAY TALKS

In person, Tin Sheds Gallery Theatre. 2.30pm to 4.00pm

 

Saturday 23 April. Merilyn Fairskye, “Long Life. The Slow Violence of Radiation”. With Paul Brown. Chair: Elizabeth Rechniewski              

Sydney-based artist Merilyn Fairskye will present her new project Long Life, bringing together the range of her work on life and death in the nuclear age, produced after visiting Chernobyl, Ukraine; The Polygon, Kazakhstan; Sellafield, UK, and nuclear sites in Russia, New Mexico and Australia. The challenge is how to make the (nuclear) world felt and in doing so, perhaps disturb the way we think about this world.  In discussion with creative producer, Paul Brown, they will reflect on the relationship between artistic practice, aesthetics and the political.  

Registration: https://events.humanitix.com/tin-sheds-gallery-artist-talk-or-merilyn-fairskye-long-life-the-slow-violence-of-radiation

 

Saturday 30 April. Roman Rosenbaum, “Manga as Nuclear Art: Contemporary Perspectives of Hiroshima and Nagasaki”. Chair: Yasuko Claremont

Tracing the earliest manifestation of the atom bomb in comics from censored Superman comics to their Australian antipodean counterpart in Captain Atom, this seminar presentation traces the lineage of graphic novels addressing the nuclear age via Nakazawa Keiji’s seminal countercultural classic Barefoot Gen, until the appearance of the transgenerational drawings by Kōno Fumiyo’s In This Corner of the World. Leading up to the yearly commemorations of these traumatic events several new works have appeared that seek to reshape the narrative of the atomic bombs. The latest works by Takeo Aoki Hiroshima’s Revival (2016) and Didier Alcante La Bombe (The bomb, 2020) will be discussed in some detail.

Registration: https://events.humanitix.com/gallery-talk-or-manga-seminar